誰も取り残されないように――バチカンによるワクチン接種政策(海外通信・バチカン支局)

バチカンの教皇パウロ六世ホールにつくられた新型コロナウイルスワクチンの接種会場を訪問する教皇フランシスコ(バチカンメディア提供)

バチカンのマテオ・ブルーニ報道官は3月31日、同市国内にあるローマ教皇パウロ六世ホールにつくられた新型コロナウイルスワクチンの接種会場で、100人を超える生活困窮者が接種を受けたと発表した。彼らは、マザー・テレサが創設した「神の愛の宣教者会」、聖エジディオ共同体、ローマにあるカトリック教会の救援機関「カリタス」などからも支援を受けている。

現教皇フランシスコは復活祭(今年は4月4日)前の聖金曜日(キリストの受難追憶の日)にあたる4月2日、接種会場を訪問。医師や看護師、接種を待つ路上生活者や難民らと懇談した。

昨年のクリスマス(12月25日)、教皇は世界に向けてメッセージを発表。この中で、「国家、企業、国際機関の指導者たちを含む全ての人々に、競争ではなく協力を促進することによって、あらゆる人々に対する解決策(ワクチン)を探すように」と訴えた。「全ての人々、特に、地球上の、あらゆる地域に住む、より弱く、より助けを必要としている人々にワクチン接種を」と呼びかけていた。

教皇は、ワクチン接種を待つ路上生活者らと触れ合った(バチカンメディア提供)

これを受けてバチカン市国では今年1月、聖職者と職員を対象にワクチン接種が開始された。最初に接種を受けた人々の中には、路上生活者25人が含まれており、教皇や職員と同じく米国の製薬会社ファイザーとドイツのビオンテック社が共同開発したワクチンが使用された。

教皇慈善活動室は、ローマ教皇庁からの予算に加え、信徒から資金を集める「ワクチンの買い置き運動」を展開して購入費を確保。ローマ市内の感染症専門病院「スパランツァーニ」から寄贈されたものも使い、路上生活者や生活困窮者への接種活動を継続している。

バチカンは4月2日までに、約800人の生活困窮者に対してワクチン接種を行ってきた。今後、さらに400人への接種を予定している。こうした取り組みは、バチカン医療局や教皇慈善活動室が運営する簡易診療所でボランティアとして活動する医師、看護師たちによって実施されている。「誰も一人では救われない。誰も取り残されないように」という精神が、バチカンの接種政策のモットーだ。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)