第37回庭野平和賞贈呈式 庭野日鑛名誉会長挨拶 要旨
10月26日にオンラインで開催された「第37回庭野平和賞贈呈式」の席上、庭野平和財団を代表して庭野日鑛名誉会長が挨拶に立った。要旨を紹介する。(文責在編集部)
庭野名誉会長挨拶
「社会運動と仏教が一つになる時が来た」と確信した法輪師は一九八八年、「浄土会」を創立されます。そしてNGOなどを設立し、北朝鮮への人道支援活動、インドの不可触民などへの支援、環境保全活動などを展開してこられたのです。
その行動力を象徴するエピソードがあります。
初めてインドを訪れた時、赤ちゃんを抱えた女性が「ミルクを買うために六十ルピーを恵んでほしい」と近づいてきたそうです。ツアーガイドから「物乞いをする人に金を渡してはいけない」と事前に注意されていたため、断ったそうですが、あとで六十ルピーがいかに小額かを知って、深く後悔されたといいます。六十ルピーで命をつなぐことができるなら、差し出そう。二度とこういう拒否はしまい、と心に決めたことが、インドでの小学校、中学校、病院の設立、給食の提供、衛生教育の実施などにつながったのです。目の前の現象を通して内省し、気づきを得て、即実行に結びつけるところが、法輪師の真骨頂と申せましょう。
いま、私たちは数々の課題に直面しています。その根本原因は「貪欲(とんよく)・怒り・愚痴」の三毒にあると法輪師は分析されています。その三毒を正当化してきた社会構造によって、現代の危機的な状況がもたらされたと言われます。飢えや貧困、無教育、人権侵害などの背景には紛争や戦争の存在が横たわっています。争いの原因となる根強い敵対心を解決することなくして、人間の尊厳を守ることはできないのです。
儒教の『大学』という書物に、「修身斉家治国平天下(しゅうしんせいかちこくへいてんか)」という一節があります。心を正し、身を修めることが、家庭を斉(ととの)え、国を治め、世界を平和にすることにつながる。言い換えるならば、心を正し、身を修めることなくしては、家庭の平和も、国の平和も、世界の平和もあり得ないのです。
一人ひとりの心の修養と同時に、広く社会へと運動を広げていくことによって自己変革と社会変革が同時に起こる――法輪師の確信です。今後、新しい文明を創造していくことについて印象的なことを述べておられます。
「“自己犠牲”によってなされるのではなく、それをつくるプロセスそのものが喜びでなければいけません。目覚めた心で、いまの社会構造や価値観に迎合せずに生きていく私たちが、誰よりも幸せなら、自(おの)ずと私たちは多数派になっていくことでしょう。ですから修行者は、幸せでなければいけません。
苦しんでいる人に手を差し伸べ、平和な世界を築くことに力を尽くし、自然環境に心を配りながら生きていく人々が、より幸せで自由であれば、必ずや新しい文明が芽生え、育っていくことでしょう」
この言葉を皆さまとかみしめたいと思います。