ワクチンの開発競争に対し、共通善を説く教皇(海外通信・バチカン支局)

米国大統領選を前に、人種間に信頼の橋を――WCRP/RfP国際委員会

バチカンの公式ウェブサイト「バチカンニュース」(イタリア語版)は9月2日、『米国、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)――われわれは和解のために努力する』と題する記事を掲載した。

この中で、WCRP/RfPを「暴力、人種差別の横行、これに対する抗議運動に揺れる米国で、諸宗教の代表者が対話、一致に取り組み、和解のために努力するグループ」と報道し、WCRP/RfP国際委員会のコミュニケーション・ディレクターであるマッダレーナ・マルテーゼ氏のインタビュー記事と音声を配信した。

米国は11月に大統領選挙を控えているが、現在、新型コロナウイルスの感染者が630万人、死者が19万人近くに上り、どちらも世界最多を記録する(9月8日時点)。また白人警察官によるジョージ・フロイド氏殺害事件、ジェイコブ・ブレイク氏銃撃事件などから、人種差別への抗議運動が広がっている。

マルテーゼ氏は、こうした米国の現状を「悲劇的」と評する一方、信頼を醸成するため、今こそ人と人の間に「橋を架ける絶好の機会」と強調。同国際委員会はユダヤ教、イスラーム、カトリック、プロテスタントなどの宗教共同体と連携し、「人種的、社会的、経済的な観点から和解への取り組みを促進するため、新しい形での抗議運動を推進し、行動している」と述べた。

その具体的な取り組みとして、同国際委員会は「諸宗教人道支援基金」を創設しており、同ウイルスの感染拡大により各国で起こっている極度の貧困、国家間の緊張といった状況に対処するため、人種の異なる人たちの協力を基盤とした、さまざまな連帯活動を促進していると伝えた。

さらに、宗教者にとって重要なことは「より価値があり、より一致を促進するという目的に向かって努力すること」と説明。5月に発生したジョージ・フロイド氏殺害事件以来、同国際委員会は毎週、「各人が直面する苦しみのほか、所属する宗教共同体の違いが差別、不正義、不平等の原因となることについて話し合う集会を開いている」と述べた。加えて、黒人への差別の撤廃を訴える公民権運動を主導したマーチン・ルーサー・キング牧師が、1963年8月28日に「私には夢がある」とスピーチしたことに言及。これを記念して同国際委員会は、9月3日にイスラームとユダヤ教のコミュニティーを中心に、「正義、一致、人種差別の撤廃を願う祈りの集会」を企画していると明かした。

また同氏は、大統領選を控え、「米国民と、国家の統治制度や(トランプ)政権との関係は危機的状況にある」と指摘。一方、「新型コロナウイルスによる入院患者の増加、緊急医療のひっ迫といった問題を最前線に立って対処し、改善に努めた州知事に対する人々の信頼が高まっている」と見解を述べた。また大統領選では「米国の未来に関わるさまざまなビジョンが交錯している」と分析。その例として、「多くの失業者問題を解決するための経済的側面を強調する」ビジョンが掲げられる一方で、「社会における不正義、貧困や移民問題を重視する」別のビジョンが示されるなど、相反する施策を主張し合っていると話した。未来を左右する大統領選にも国や社会の“揺れ”が見受けられるというわけだ。

こうした中で人種差別の問題が噴出し、「市民と、警官、州兵との関係悪化が問題になっている」と指摘。選挙戦で打ち出されたスローガンでは、問題の根源に迫るよう国家を導くことも、現在最も必要とされ、喫緊の課題である対話の促進も簡単にはできないと述べ、危機感を吐露した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)