悲哀に満ちた死に心寄せる人々――イタリア(海外通信・バチカン支局)
悲哀に満ちた死に心寄せる人々――イタリア
イタリアでの新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者が4月2日現在、10万人を超えた。死者は約1万3000人に上り、その平均年齢は79歳。各地の高齢者福祉施設で、多数の集団感染が確認されている。
医療従事者も1万人が感染し、69人の医師が殉職している(4月2日現在)。一方、急激に感染が拡大した同国北部では、医師や看護師の不足に対応するため政府が医療支援ボランティアを募集したところ、定員を数倍も上回る応募があるという。自らの死を覚悟して医療現場に立つ彼らがメディアを通して語ったのは、人工呼吸器をつけ、言葉に託すことができない高齢者の「絶望と哀願」を表現する「眼」についてだった。
感染を防ぐため、家族や親族であっても患者に面会できない。高齢の患者は誰にも看取(みと)られないまま他界し、埋葬される。北部では、亡くなった人の棺(ひつぎ)を置く場所がなくなり、土葬も火葬も間に合わず、軍隊のトラックが出動して棺を他の地域へ搬送している。その映像は、各国のメディアで報道された。
ローマのラザロ・スパランツァーニ病院で、院内のカトリック司祭を務めるジェラルド・ヘルナンデス神父は、「彼らの苦しみと恐怖は、孤独にある」と指摘。医療関係者は精いっぱい活動を続けているが、一人で他界していく人は後を絶たず、「私自身、高齢患者に近寄ることができないため、彼らに対して(祈りの)姿を示すことさえできず、彼らの苦しみを軽減することができなくなってしまった」と語る。
感染が拡大する中、病だけでなく孤独にも苦しむ高齢患者たち。彼らの言葉にならない「哀願の眼」を、死をもいとわず治療にあたる医師や看護師たちが伝えている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)