人口減少時代に求められる宗教の役割とは 国際宗教研究所によるシンポジウム

『人口減少時代に宗教はどう立ち向かうか』をテーマに、公益財団法人「国際宗教研究所」によるシンポジウムが2月18日、東京・豊島区の大正大学で行われた。宗教者や研究者ら101人が参加した。

今回のシンポジウムは、日本の総人口の減少、さらに都市への人口集中により地方の過疎化が進み、コミュニティーが弱体化する中で、宗教が果たす役割を考察するために企画された。当日は、同財団理事長の島薗進・上智大学教授があいさつ。続いて、佐藤一伯・御嶽山御嶽神明社宮司(岩手・一関市)、袴田俊英・曹洞宗月宗寺住職(秋田・藤里町)、山田弘子・宗教法人「GLA」理事(総合本部=東京・台東区)、吉村ヴィクトリア・浄土真宗本願寺派正念寺坊守(宮崎・高千穂町)が地域の実情と活動を報告した。

佐藤宮司は、全国的に氏子が減少している神道界の状況を説明するとともに、東北では、神職の後継者不在により伝統芸能や行事など文化の継承が困難になると懸念を表した。しかし、伝統文化は今も地域の活性化、人材育成に有効であるとし、森厳な神社の雰囲気を市民に体験してもらう機会を設けるほか、広報紙やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通して東北特有の伝承文化の魅力を伝えるといった活動を紹介した。

また、袴田住職は、農村地域の過疎化には、高度経済成長と農村の近代化の政策が影響していると説明。家族や親族は遠方に暮らすという住民が増えた現在、葬送儀礼の簡略化が求められ、身近に家族がいないために「墓じまい」が増える状況に対し、死者が排除される社会になってきたと指摘した。その上で、葬祭の方法が変化しても、寺院には故人を供養する役目があると強調。「無縁にしない」をコンセプトに集落の合葬墓をつくり、集落全体で供養する取り組みを発表した。

続いて山田氏は、信者数が伸び悩む新宗教の中で増加傾向にあるGLAの現状に触れ、自分の「魂を輝かせる」といった教義や、会員の学びの場である講演会、セミナーなどの活動を説明。人間力を高め、人生における現実の問題を解決する哲学を提供していくことが現代宗教の役割と語った。

一方、イギリス出身の吉村坊守は、一般的に寺院が「退屈な場所」と理解されていることが寺離れの原因と指摘。どの世代にも親しまれる寺院を目指し、子供向けのサマーキャンプや、高齢者宅、保育園を訪ねるボランティア活動などを行っていると紹介した。また、母国語である英語を生かした二カ国語による冠婚葬祭や民泊事業の実施を説明した。

この後、4氏による全体討議が行われ、同研究所所長の山中弘・筑波大学教授が司会を、櫻井義秀・北海道大学教授がコメンテーターを務めた。