庭野平和財団がシンポジウム 『共同体に溶け込んでいる文化としての宗教の役割』をテーマに

庭野平和財団のシンポジウムでは、哲学者の内山節氏が基調発題

『共同体に溶け込んでいる文化としての宗教の役割』をテーマに庭野平和財団のシンポジウムが11月5日、東京・中野区の中野サンプラザで開催された。NPO関係者や市民54人が参加した。

当日は、哲学者で、NPO法人「森づくりフォーラム」代表理事の内山節氏が基調発題を行った。内山氏は、日本元来の民衆宗教は、教義や教団組織を持たないことが多く、人々の生活と一体で、地域共同体をまとめる役割を果たしていたと説明した。その後の宗教の歩みを踏まえた上で、現代人の傾向に触れ、特定の宗教団体への帰属意識が薄れている一方、道端の「地蔵さま」に手を合わせる、また、自然そのものを崇拝するといった素朴な信仰心は、人々の間でむしろ高まっているのではないかと指摘。「みんなが幸せに生きられる世界をつくり、守る」ために、そうした信仰心は大事であり、それらを育み、互いに支え合える共同体やコミュニティーの創出や再生が求められているとの見解を示した。

「報告」を行う田中師

続いて、金峯山寺長臈で林南院住職の田中利典師、関西大学教授の草郷孝好氏が、宗教者、研究者の立場から「報告」を行った。

この中で、修験者の田中師は、山岳信仰に神道、仏教、陰陽道などが習合した修験道の歴史を紹介。明治5年、政府により修験道を禁止する法令が出された後も関西を中心に地域の共同体によって信仰の伝統が守られてきたと解説した。また、戦後に地域共同体が崩れていく中でも個人の信仰として人々に受け継がれてきたと語った上で、信仰は生きるための支えであり、「人々は自分を超えた普遍的なものとのつながりを求めている」と述べた。

関西大学教授の草郷氏

一方、草郷氏は、仏教国のブータンで1970年代に提唱された「国民総幸福」(GNH)の指標に言及。経済成長だけでなく、自然環境や伝統文化の保全を含めた人々の幸福の度合いによって豊かさを捉えるGNHの指標に欧州や日本などの先進国が関心を寄せている背景には、ものの豊かさよりも心の豊かさを重視する人が増える傾向があると考察した。さらに、幸福感に関する諸研究によって、人が幸せを感じるには、経済的な要素のほか、人とのつながりや共感し合える関係、利他にあふれた社会、心が休まる環境がいかに重要かが分かってきていると説明した。

この後、3氏による鼎談(ていだん)と、来場者からの質問を受けてのオープンディスカッションが行われた。