「新枢機卿の親任式典」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)
礼拝所での安全保障を求めて――国連と諸宗教者
8月20日から23日までドイツ・リンダウで行われた世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)の第10回世界大会において、国際委員会のウィリアム・ベンドレイ事務総長(当時)は、諸宗教の礼拝所や聖地の保護に関してこう発言した。
「それぞれの宗教共同体は、自身の礼拝の場を保護するだけでなく、他の信仰の聖地も保護しなければならない」「諸宗教は、聖地の保護に関して重要な役割を果たすが、それは政府、自治体、社会からの支援があってこそ実現できる」。その上で、「現在、(WCRP/RfPに)聖地の保護に関する具体的なプロジェクトは導入されていないが、各国政府や国連との交渉は始まっている」と明かしていた。
この発言を裏付けするように、ニューヨークにある国連本部のチャーチ・センターで9月19日、「一致して礼拝の場における暴力を予防」するための会議が開かれた。世界教会協議会(WCC)のプレスリリースが翌20日に伝えた。会議は、WCC、米国のムスリム機構評議会、キリストの教会協議会(米国のWCC組織)とWCRPの共催によるものだ。
席上、国連「文明の同盟」(UNAOC)のミゲル・アンヘル・モラティノス上級代表は、「宗教区域の安全を守るための国連計画『一致と連帯の内における安全で平和な礼拝』と呼ばれるプロジェクトを紹介した。UNAOCは、「2005年にコフィ・アナン事務総長によって提唱されたもので、宗教的信条と伝統に対する相互尊重を推進し、あらゆる分野で強まる人類の相互依存を再確認する連合」(国連広報センター)だ。
上級代表は、「国連は、宗教的理由を動機とした憎悪による犯罪や礼拝場に対する暴力を抑制するため、具体的な取り組みを促進させるよう努めてきた」と強調。宗教区域の安全を守るための国連計画は、「攻撃が起こる可能性に対して、宗教者たちが手段を講じられるよう対応の方法を提供する」ためのものと説明した。その目的を果たしていくために国連は、各国政府、諸宗教指導者、信仰を基盤とする諸機関、市民社会、青年の男女、地域の共同体、一般市民、ソーシャル・メディア、民間各組織に協力や協働を呼び掛けているのだという。「(礼拝所での安全保障が)世界の喫緊の問題として受け取られている」とし、そのための努力は「恒常的なものでなければならない」と訴えた。
WCCの国連本部代表のダグラス・レオナルド牧師は、「宗教グループや礼拝所に対する攻撃は、実行する人々の不満や怒りによって起きているが、その矛先は無実の人々という間違った標的に向けられている」と指摘し、「人々に、攻撃する者たちの怒りの原因を見極め、彼らの問題の解決を図る対話」の重要さを訴えた。彼らの怒りの原因が、往々にして、「その地方に根付いてきた伝統的な権力構造が、世界に広がるグローバル経済や国際政治によって犯され、置き換えられていく危機感に由来している」からだという。レオナルド牧師は、各地の独自性を無視して展開されいるグローバル化という世界の標準化の歪(ひず)みが問題の根底にあると批判している。
WCRP/RfP国際委員会の新事務総長に就任したアッザ・カラム博士は、礼拝所の安全保障の問題は、「各国政府、諸宗教指導者、各宗教教団の課題ではなく、それぞれが自立と共存を図っていく関係を社会にどのように築き、方向付けていくかに関わる人類全体の問題」と主張した。「私たちが日常生活において、他の人々との関係をどのように築き、生きているか」の問題だというのだ。
こうした問題を挙げながら、「私たちの子供たちの心と意識をどのように方向付けていくかという教師の役割」を重視するカラム事務総長の発言もあった。これは、ローマ教皇フランシスコとイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長が今年2月にアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで署名した「人類の友愛に関する文書」の精神に相通じるものがある。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)