第36回庭野平和賞贈呈式 受賞者のジョン・ポール・レデラック博士が記念講演

贈呈式では、庭野名誉会長から受賞者のレデラック博士(右)に賞状が贈られた

公益財団法人・庭野平和財団による「第36回庭野平和賞」贈呈式が5月8日、東京・港区の国際文化会館で行われた。受賞者は、米国ノートルダム大学名誉教授のジョン・ポール・レデラック博士(64)。絶対平和主義を伝統に持つメノナイト(キリスト教再洗礼派の一つ)の信仰を基に「紛争変革」(紛争変容)の理論を提唱し、世界の紛争地で調停や和解、平和構築に取り組んできた。贈呈式では、宗教者や識者約150人が見守る中、庭野日鑛名誉会長から賞状が手渡された。

レデラック博士は、1955年、米・インディアナ州で、メノナイトを信仰する家庭に生まれた。75年から88年までメノナイトの中央委員会や宣教委員会に所属し、ベルギーやスペインなどで人々の救済・平和活動に尽力。コロラド大学大学院在学中の86年、中米・ニカラグアの先住民族ミスキート族と政府との自治権付与問題に調停委員として関わり、和解に貢献した。以降、ソマリア、北アイルランド、コロンビア、タジキスタン、ネパールなど武力紛争の地域で調停や平和構築に取り組んできた。

各地での活動の経験と、「人権といのちを徹底して尊重する」信仰観を基に、博士は80年代から「紛争解決」に代わる「紛争変革」の理論を提唱した。「紛争変革」とは、武力衝突など目に見える状況の解決にとどまらず、問題の原因である対立的な人間関係や差別的な社会の状況も視野に入れ、対話による相互理解を促進して公正や正義の実現を図る、真の和解を目指す独自のアプローチだ。

博士はこの理論を生かし、暴力や社会の破綻を防ぎながら対話の枠組みを築いていった。同時に、紛争地域で、市民をはじめ政府関係者、反政府勢力の指導者に至るまで幅広い層を対象に平和構築トレーニングや和解プログラムを実施。その数は数百に及び、実施国は35カ国に上る。

一方、ノートルダム大学クロック国際平和研究所やイースタン・メノナイト大学の教授として人材育成にも注力。94年には、イースタン・メノナイト大学に正義と平和構築センターを設立した。さらに、スペインやグアテマラの大学でも平和学や紛争学の講義を受け持ち、世界各地で後進の育成に努めてきた。

現在は慈善団体「ヒューマニティ・ユナイテッド」の上級研究員を務め、コロンビア真実和解委員会の諮問委員にも選出されている。

また、博士は俳句に傾倒。五感を研ぎ澄まして本質を見極め、畏敬の念を持って物事に向き合うところに感動したと話している。きっかけは、紛争下で壮絶な体験をした人々から発せられる言葉はわずかだが、そこには複雑な思いが凝縮されていることを身をもって知り、人生や人間性を探求する俳句との類似点を見いだしたことにあるという。松尾芭蕉の『奥の細道』に造詣が深く、自らも一日に一句を詠む。

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