WCRP/RfP日本委 PNND日本と「核兵器廃絶に向けた共同提言文」作成 NPT再検討会議の準備委員会で各国政府に訴え

核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)日本ならびに世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会による核兵器廃絶に向けた共同提言文
2015年4月、PNND日本とWCRP 日本委員会は、第9回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議での政府間協議に資することを目的として、核兵器廃絶に向けての共同提言文を発表した。そこには国会議員による政治・立法的アプローチと宗教者による倫理・道義的アプローチの相互補完的にもとづく取り組みの必要性が謳われ、唯一の戦争被爆国である日本の国会議員と宗教者が核兵器のない世界に向けて、より強固な協働の決意が示された。そして、核兵器の非人道性の主張と核兵器使用の非正当性の問題の観点から、広く国際社会に対し廃絶に向けたアドボカシーの推進に取り組むことも確認された。

あれから4年後の現在、核兵器を取り巻く国際情勢は益々厳しい状況に陥っている。2015年の第9回NPT運用検討会議では最終合意文書が採択されず、核廃絶に向けての新たな国際協調の形成がなされなかった。 その後、米国、ロシア、中国間で宇宙空間をも念頭に置いた核兵器開発競争が一層過熱し、さらに北朝鮮による核・ミサイル能力は、北東アジアの死活的な脅威になっており、中国の核兵器に関する透明性の欠如と核兵器の数の増加などは世界的に大きな懸念となっている。米国のイランの核合意(JCPOA)からの離脱や中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱に向けた動きなどもあり、核兵器のさらなる展開と使用の危険性が高まっている。こうした世界の不安定化は、2019年1月に発表された世界終末時計が 「世界破滅2分前」を示したことに象徴されている。

一方、2017年7月の核兵器禁止条約の採択は、核兵器の廃絶に向けた大きな出来事であった。同条約の締結は、第8回NPT運用検討会議合意文書の中で示された核兵器の非人道性の主張と、武力行使の手段は無制限であってはならないという国際人道法の原則が適用された成果であるといえる。NPT条約を補完・強化する条約として、核兵器禁止条約は、 今後、さらにその必要性が高まってくると思われる。

国際協調主義と国連への期待

このような状況下、軍拡路線や自国第一主義が、一部の国で顕著になってきている。自分の国さえ良ければよいという考えが、独善的で排他的な風潮を国際社会に招き、強い相互不信を増長させている。我々は改めて、これまで国際社会が世界の安定と調和をもたらすために築き上げてきた国際協調主義の重要性を訴えたい。とりわけその推進役として、 今まで以上に多国間組織としての国連の役割が期待されている。 昨今、 「公共善」を強く強調している国連には、政治的、経済的な側面のみならず、道義的な側面からも、その指導力を発揮してもらいたい。

民主的に開かれた交渉

昨年から今年の年初にかけて、トランプ米国大統領と金正恩・北朝鮮労働党委員長による米朝首脳会談が行われた。しかしながら、多くの人々が期待した朝鮮半島の非核化の進展は、依然不透明である。この一連の動向を鑑みると、核兵器の問題は一部のトップリーダー間の交渉に任せるのではなく、民主的に開かれた対話の場が必要であることを再認識させられる。核兵器の問題は一人ひとりの「いのち」の問題であり、同時に人類全体にかかわることからして、国益を超えた議論が不可欠である。その意味で多国間交渉の必要性とともに、国会議員や地方議員、宗教者、市民社会におけるネットワークが、政府間による軍縮交渉に有益な形でリンクするような仕組みが構築されることが重要であることを強調したい。

すみやかな「核抑止論」の再検証と「究極的な状況下での核使用」に関する議論

こうした核を巡る現在の国際情勢に鑑み、PNND日本とWCRP日本委員会は、安全保障における必須の政策として、核保有国ならびに核の傘依存国が推進している核抑止論の信憑性について、すみやかに幅広い議論が行われることを強く期待したい。そのためには、国会議員と宗教者が、率先してこの課題を検討する対話の場を作り出すことに努力しなければならないと考える。2015年に発表した提言文で我々は「核兵器は『使ってはならない兵器』『使えない兵器』である」と謳い、核抑止論が安全保障として事実上機能しないことの認識を示した。実際のところ、これまで核兵器が使用されなかったのは、核抑止が機能したというよりは偶然の賜物であって、今なお核兵器は、誤使用、事故、さらには盗難、拡散の危険にさらされているのが現状である。こうした状況は、 核抑止の効用を高めるのではなくて、核爆発のリスクを高めていると言わざるを得ない。

さらに我々は、核抑止論を支える根底的な問いとも言える「国家存立にかかわる究極的な状況」における核兵器使用の問題についても、真摯な議論がなされなければならないと考える。この安全保障上の困難な問題がなおざりにされる状況こそが、核兵器廃絶の大きな壁となっていると、 我々は認識している。

被爆者が語る被爆の実相と科学的な終末予測に対する誠実な姿勢

「核抑止論」と「究極的な状況下での核使用」の議論でとりわけ重要なのは、被爆者が身を挺して訴えてきた被爆の実相ならびに核使用の科学的な結末予測であり、これらは決して目をそらしてはならない何よりも優先されるべき観点である。核兵器を使用するということは、世界中で核のない世界を標榜する人々の共通の願いである「ノーモアヒロシマ、ノーモアナガサキ」という叫びに背くことになる。

北東アジア非核兵器地帯構想

PNND日本が継続的に取り組んでいる北東アジア非核兵器地帯構想は、 冷戦が終結して30年が経ってもなお不安定な状況にある北東アジアの平和と安定のための糸口になると、確信するものである。特に朝鮮半島の非核化及び中国の核兵器の透明性向上の問題は一刻を争うものであり、 我々はこの構想が早期に実現されるべく取り組んでいきたい。

AI、ロボット兵器に対する懸念

さらにまた我々は、非人道的な側面に加え、軍備拡張の問題として新たに浮上しているAI、ロボット兵器についても強い懸念を表明する。この科学技術の発展が、戦争に使われることの倫理的・人道的な責任を、宗教者と国会議員は強く自覚しなければならない。その意味では、核兵器の廃絶と戦争の防止を訴えるべく、1955年7月に発表された「ラッセル・アインシュタイン宣言」を想起したい。同宣言は、「私たちは、人類として、人類に向かって訴える―あなた方の人間性を心に止め、そしてその他のことを忘れよ、と。もしもそれができるならば、道は新しい楽園へ向かって開けている」と述べている。我々は一人の人間として、自らの「人間性」を再認識し、核廃絶と戦争の防止に努めなければならない。

我々は、これらの提言の具現化を通じて、まずは確実に一歩を踏み出すことが、真の核兵器廃絶のために欠かすことが出来ないものと信じる。核の脅威が高まっている現在の国際情勢をしっかりと認識し、さらには、平均年齢が82歳を超えた被爆者の切迫した願いを真摯に受け止め、PNND日本とWCRP日本委員会は、本年のNPT運用検討会議第3回準備委員会と、それに続く2020年のNPT運用検討会議、さらには本年8月ドイツにおける第10回WCRP世界大会、2020年10月東京で開催される第9回アジア宗教者平和会議(ACRP)大会などの重要な国際会議で、国会議員と宗教者が、核兵器廃絶の願いを共に携えながら、さらなる危機感をもって協働していくことを、ここに誓い合うものである。

2019年4月25日