庭野平和財団によるGNHシンポジウム 東アジアの伝統社会に学ぶ
『日本社会の将来像――ローカリズムからの提案』をテーマに、庭野平和財団の「第10回GNH(国民総幸福)シンポジウム」が11月6日、東京・中野区の中野サンプラザで開催され、約50人が参加した。
GNHシンポジウムは、経済的な側面だけでなく、自然環境や伝統文化の保全などを含めた人々の幸福度によって豊かさを捉える「GNHの理念」の普及を目指すもの。2008年から、13年を除き毎年行われてきた。当日は、哲学者で、NPO法人「森づくりフォーラム」代表理事の内山節氏が基調講演。元神戸大学大学院研究員の田恩伊(チョン・ウニ)氏、千葉大学大学院生のオリヤンハイ・ムルン氏が韓国と中国・内モンゴル自治区での取り組みについて報告した。
基調講演の中で内山氏は、近代以前の伝統社会の特徴として、「労働」「暮らし」「地域」「文化」「信仰」といった、それぞれの人生を形作るあらゆる要素が密接につながり合い、人々も多様に結びついていたと説明した。一方、現代社会では、こうした要素が結びつきにくく、人々もグローバルな市場経済や国家、教育制度といった巨大なシステムに組み込まれた“受け身”の生き方を強いられる傾向がますます強くなっていると指摘。自分の力で物事を動かしていく感動や働きがいを実感しにくいと分析した。
その中で今、地域起こしやコミュニティーづくり、社会問題を解決するためのソーシャル・ビジネスといった手段や形態を取りながら、豊かさを見直して「伝統に回帰する動き」が各地で広がっていると解説。「システムに従属しているのでは人間は幸せになれない。それよりもむしろ、どういうふうに関係をつくるかが大事であり、伝統社会の発想から学ぶことがたくさんあると多くの人が気づき始めた」と語った。
また、日本の伝統的な社会において、人々が考えていた自らの暮らしの構成員は生身の人間だけでなく、森や海といった自然、かつて共に暮らした亡き家族や先祖も含まれていたと強調。そうした自然や姿のない存在を意識し、結びつきを重んじながら社会をつくっていたと紹介し、そうした揺り戻しも現在起こっていると話した。