奈良県宗教者フォーラム 明治維新前後の社会を学び、現代につながる宗教のあり方を考える
『日本のこころと宗教の役割 明治維新から150年――宗教・文化政策を考える』をテーマに第15回奈良県宗教者フォーラム(主催・同実行委員会)が9月29日、奈良市の薬師寺まほろば会館で行われた。奈良県、奈良市が後援した。
当日は、宗教者、市民約200人が参集。フォーラムは、薬師寺の加藤朝胤執事長、唐招提寺の久保孝戒執事長、法隆寺の古谷正覚執事長を導師に、仏教式の平和祈願法要から始まった。
実行委員長の久保師が開会あいさつに立ち、テーマに込められた今回のフォーラムの趣旨を説明。荒井正吾同県知事、仲川げん同市長の来賓あいさつに続き、天理大学人間学部の岡田正彦教授と国立歴史民俗博物館(千葉・佐倉市)の久留島浩館長の講演が行われた。
『近世の「宗門」から、近代の「宗教」へ』と題して講演に立った岡田氏は、1720年に江戸幕府が禁書令を緩和し、西洋の天文学や医学の知識が日本に流入したことで、「18、19世紀は日本人の常識や生活意識が根底から変化した時代になった」と説明した。その背景には、科学の新しい知識を身につけた国学者や儒学者が、それまでの日本人の常識に大きな影響を与えていた仏教の考え方を批判し、僧侶との間で宇宙論やブッダ誕生の歴史意識などをめぐって論争が起きたことを紹介。「僧侶は経済的生産性がない」といった意見もなされたことを挙げ、「こうした宗教への批判は日本の歴史の中で初めてであった」と述べた。
この論争は明治後期になると仏教側からの反論がなくなり、終息するものの、岡田氏は、歴史的事実と宗教的リアリティーをめぐる認識の違いなど、「この時起きた論争は何一つ解決されておらず、200年経った今も重要な問題を含んでいる」と強調。その例として、仏教の宇宙論には、自然科学の宇宙像にはない、人間の運命と死や、死後の魂の行方といった人間が生きる上で重要な課題とその解答が示されているとした。また、近代では、宗教は個人の信仰に意味を限定し、宗教団体と社会との分離を唱えられる傾向にあるが、宗教が社会と結びつかない時代は歴史上なかったと指摘。信仰や宗教のあり方を考える上で、「200年前に突きつけられた問題が、今の私たちにも突きつけられている」と訴えた。
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