内戦、津波被害者の心のケアに スリランカで佼成カウンセリング研究所が講座

明治学院大学の井上名誉教授

【井上孝代・明治学院大学名誉教授に聞く】

私はカウンセラーとしてこれまで、東日本大震災の被災者・援助者への心のケアに取り組んできました。災害や紛争などにより大切な人を失い、住民の多くが心に傷を負う(トラウマ)体験をした現場では、往々にして、地域のコミュニティーが崩壊する惨状を目にします。心に傷を負うと、自分以外の人に気持ちを向ける余裕がなくなるからです。

そうしたトラウマを抱えた人を放っておくと、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、常に不安・緊張状態が続いたり、悲観的な思考に陥ったりします。心身の不調のみならず、社会生活を送ることも困難になり、他の人に対して攻撃的になってしまうこともあります。そのため、カウンセリングがとても重要なのです。

臨床心理学では、適切な心のケアを施してトラウマを克服することで、人間的にさらなる成長を遂げる「心的外傷後成長」(PTG=ポスト・トラウマティック・グロース)という考え方が知られています。トラウマを経験した方々へカウンセリングなどの心理支援を行うことで、PTGの五つの要素である、(1)他者とのつながりを肯定的に捉える (2)自分の強さを自覚する (3)自らの可能性に気づく (4)スピリチュアルな変容 (5)生かされていることに感謝する、といった内面の変化(成長)を引き出すことができます。

特に、(1)は、崩壊したコミュニティーの再構築に欠かせません。「つながろう」という自発的な意識は、人と人とを結ぶ活力を生み出します。そのため、今回の講座では、カウンセリング技術の学習として「アートセラピー」を体験するとともに、グループワークを通じて、受講者に他者とつながることの心地よさを感じてもらうことを大切にしました。

実は、カウンセラー同士がつながることにも大きな意味があります。カウンセラーは、一人で頑張ってしまいがちで、孤立すると、「共感疲労」を起こします。クライエント(来談者)の心情に共感しすぎて、カウンセラー自身が心を疲弊させてしまうのです。しかし、「私には仲間がいる」と思えることで心が癒やされ、勇気づけられます。さらに、カウンセラー同士が互いを支え合う関係が生まれれば、地域で心のケアの専門家ネットワークが形成されます。

このように、カウンセラーには、心の傷をケアし、崩壊したコミュニティーの再構築を仲介する重要な役割があります。コミュニティーを再構築するには時間が掛かります。ですから、カウンセラーの継続的な養成が必要です。今後も、佼成カウンセリング研究所が、今回のような取り組みを続けられることを期待しています。