楽生(らくいき)~楽に生きるを極めるヒント~(7) 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子

“どっちでもいい”を卒業しよう
「どっちでもいいです」──会話の中で、つい口にしていませんか?
一見、相手に譲っているようで、実は自分にも相手にも、最良ではない結果を招いているかもしれません。
20世紀を生きた女性たちは、ミニスカートやパンタロン、ボディコンといった流行を経験しているでしょう。1980年代には、経済成長やバブル景気の影響で高級ブランドが流行し、若い女性でも高価なバッグを持っていました。私もそのすべてを体験しました。
当時は、テレビや雑誌で見たものがすぐに手に入り、「流行」に乗っていれば無難でした。しかしその後、多品種少量生産が進み、価値観は多様化していきました。安くても高品質なブランドが登場し、高級ブランドは富裕層の象徴になりました。選択肢は広がり、何を選ぶかは自分次第です。
今は、大手メーカーやマスメディアよりも、SNSや通販の売れ筋から流行が生まれ、短期間で消えます。年齢の枠もほとんど意味を持たず、似合っていれば何歳でもOKという時代になりました。
言い換えれば、ファッションだけでなく、食事、趣味、健康管理、家族との関係まで、あらゆる場面で「自分のセンス」が問われます。だからこそ、「自分で決める力」が、これまで以上に大切なのです。
しかし、自分で決めるのは意外と難しいものです。以前は「流行」や「常識」が判断の道しるべでしたが、今はそうとも言えません。「どっちでもいい」を続けると、決める力は気づかぬうちに、少しずつ衰えます。
たとえば、友人や家族と外食するときに「どこでもいいよ」と意思表明をしないままだと、健康上避けたい店や、本当は食べたかった料理を逃すことも。結果、自分は満足できず、相手にも気を遣わせます。「え、無理をさせた?」と感じると、楽しいはずの時間も台無しです。
迷うこと自体は悪くありません。むしろ、自分の気持ちや望みを確かめる大切な時間です。大事なのは、その迷いを放置せず、自分に問いかけ、決めることです。

イラスト・みよし
私は何が好き? どうしたい? 何に心が動く?
これを大切に決めていくことこそが、相手を尊重しながら、自分を保つことです。迎合と譲り合いは違います。旅行先で行きたい場所が二つあれば、「今回はあなた、次回は私」と提案できるのが譲り合い。「あなたに合わせるからどこでもいい」は、自分の意思を手放した迎合です。
迎合が偶然良い結果を生む場合もありますが、原因不明のモヤモヤが残るなら、意思決定を放棄したせいかもしれません。「自分で決める」ことは、思いやりのひとつなのです。
もうひとつ大事なのは、意思を伝え合うこと。笑顔は心をオープンにするための、強力なツールです。正直に自分に向き合い、相手に向き合うコミュニケーション手段です。普段から表情筋を動かし、笑顔でやりとりできる自分でいたいものです。
私からの提案です。朝起きたら鏡を見て、自分に笑顔を贈りましょう。そして、ポジティブな言葉をかけてください。ちなみに、私は毎朝鏡を見て「佳子ちゃん、かわいい」と声に出し、笑顔をつくります。現実には、シワやしみが増えているむくんだ寝起きの顔。でも、これを真面目にやっている自分が面白くて、愉快な気分で1日を始められます。「どっちでもいい!」ではなく、理想の自分を選ぶひとつの方法だと思っています。
今月の笑い
ムンクの叫び笑い
YouTube「高田佳子の笑トレで楽生」で、笑いの体操の動画が見られます。
プロフィル

たかだ・よしこ 兵庫県神戸市生まれ。日本笑いヨガ協会代表、一般社団法人笑いイノベーション学会理事長。早稲田大学非常勤講師。人が一生笑って生きられる環境づくりがライフワーク。40代で老年学修士号を取得し、2009年にインドで笑いヨガを学ぶ。介護予防・認知症予防・ストレスケアに役立つ「笑トレ」を提唱し、科学的知見をもとに心と体を軽やかにする生き方を発信している。
笑トレで元気に――健康と幸せを呼ぶ“心の筋トレ”