TKWO――音楽とともにある人生♪ ホルン・木村淳さん Vol.1

無限の可能性を秘めた楽器、ホルン

――ホルンは世界一難しい楽器といわれていますが

確かにそうですね。難しい理由の一つは、息の通り道である管が長いことです。

ホルンは非常に歴史の古い楽器で、元々は古代の人々が狩猟で獲った獣の角を吹いた「角笛」が起源といわれています。長らく非常にシンプルな構造だったのですが、次第に音域を広げる工夫が重ねられ、19世紀に異なる長さの管を組み合わせ、バルブを取り付けるなどして、現代の複雑な構造のホルンがつくられました。

現在のホルンは、管が長い上に、口を当てて息を吹き込むマウスピースが小さい。ですから、音を出すこと、正確な音を奏でることが非常に難しいのです。つまり、音を外しやすい楽器で、それで、難しいといわれるのでしょう。

音を正確にコントロールできるようになるには、たくさんの習練が必要です。私自身もまだ途上で、現在も鍛錬を続けています。

舞台に立つ木村さん(写真・左)

――木村さんにとって、ホルンの魅力とは?

それはもう、いっぱいありますよ。音楽表現の幅の広さは、おそらくホルンに勝るものはないでしょう。響きわたるほど大きな音が出るし、ものすごく小さな音で奏でることもできる。それに、柔らかい音から鋭くとがった音と、さまざまな音色が出せるんです。

分類としては金管楽器ですが、木管楽器のような柔らかな音色も奏でられますから、金管楽器と木管楽器、両方の顔を持っているのが特徴です。ほかの楽器との相性が良い楽器で、協演しても音が非常によく調和します。

ホルンを始めて45年になりますが、奥深くて飽きることがありません。例えば、指使い。ホルンは、音が出てくる「ベル」と呼ばれる部分に右手を入れて楽器を支え、左手の人差し指、中指、薬指で三つのレバーを押したり、離したりして演奏しますが、「ド」の音を出すにも、3、4通りの指使いがあるんです。

演奏会で僕は、毎回同じ方法で演奏するのではなく、それまで本番では試したことのなかった指使いを用いることがよくあります。すると、そのたびに、〈ああ、こんな音色が出るのか〉という新鮮な発見があるのです。指使い一つとっても、無限の可能性を秘めている。試行錯誤の繰り返しですが、これからもホルンの新たな面を探求していきたいと思っています。

プロフィル

きむら・あつし 1958年、石川・金沢市生まれ。ホルン奏者の田中正大、黒澤勝義、ワード・ファーン、アロイス・バンブーラの各氏に師事。桐朋学園大学在学中に東京交響楽団に入団し、86年にTKWOに移籍した。現在、日本ホルン協会理事を務める。作品の編曲は多数。趣味は、歴史的建造物を訪ね歩くこと。