たった一人のあなたを救う 日本駆け込み寺代表・玄秀盛氏

「日本駆け込み寺」代表 玄秀盛氏

新宿の歌舞伎町で2002年5月20日、「新宿救護センター」という名前で駆け込み寺をスタートしました。無償で年中無休。家庭内暴力(DV)、ストーカー、家出、自殺、多重債務、どんな相談でも受けています。その動機をお話しします。

2000年に初めて献血をしたところ、日本赤十字社から一通の通知書が届いたんですね。「HTLV‐1感染」と書いてありました。当時はいい加減な生活を送っていましたから、HIV/エイズが頭をよぎって、すぐに死を意識しました。ところが、インターネットで調べたら、白血病を起こすウイルスに感染しているというものでした。発症するのは1000人に1人ということでしたが、愕然(がくぜん)としました。

その頃、代々木のビルで五つの会社を経営し、金儲けのためなら何でもやっていました。徒党は組まないけど、商売をするのに暴力団と抗争ばかり。全国各地の歓楽街を一人歩いて、湯水のように金を使っていました。

畜生みたいな生き方をしていたんだけど、まだ生きられると分かったら、〈金儲けをしたい〉という執着が一切無くなってしまったんですね。その後の人生、俺に何ができるかなって考えました。思いついたのが、駆け込み寺でした。いろいろな商売をして、社会の裏側も見てきた。それだったら、女性と子供をエサにしている歌舞伎町で、困っている人を救えないかと考えたんです。これが発端です。それまでの事業を全部整理して始めました。

12年には公益法人格を取得し、公益社団法人「日本駆け込み寺」となり、現在に至っています。駆け込み寺には、悩みを抱えた人がどんどん来ます。例えばDV。被害者の相談を受けるだけでなく、加害者にも会います。大半が男性ですけど、話を聴くうちに、前科者が多く、定職に就きづらいという状況が見えてきました。

そういう人も救わないと、女性や子供への暴力は無くならないと思い、14年に、出所者を対象とした一般社団法人「再チャレンジ支援機構」を立ち上げました。駆け込み寺で被害者の救済を、再チャレンジ支援機構で加害者の社会復帰を支援する。この両輪で人を救うというスタンスで、今、活動しています。

一歩踏み出す勇気を与えて

駆け込み寺の話に戻りますが、悩み相談に訪れた人には「何をしたいのか」と、まず相手の第一希望を聴きます。相談者はしゃべりのプロじゃないから、話している間に相談が必ずぶれる。例えば、女性で相談内容はDVなのですが、子供への虐待もあり、金銭的な問題も抱えていて……という感じで膨らんでいくのです。その時は聴いた上で、最初の相談に戻してあげ、相手の希望を聴くんです。

それで、希望が「夫から逃げたい」だったら段取りをつける手伝いも可能だと提案します。でも多くの人は、子供の養育費や親権のことを考えて、逃げることさえも躊躇(ちゅうちょ)してしまうんですね。DVに対して第一段階となる逃げ方を教えてもらっても、後に続く問題の解決方法が分からないと行動できないんです。明日が分からなくて不安だから。誰でもそうです。

でも、行動を起こさないとだめ。人は、第一の行動を起こした時、階段を一段上がるように景色が変わって見え、さらに自信もつき、冷静に問題と向き合えるようになります。そこでもう一度、話を聴くことにしています。

悩みに対する答え、それをこちらは出すことはありません。寄り添って、ちょっとヒントを与える。それで本人が一歩先の行動を起こしたら、その人は変わるんです。その人が二度つまずかないように、自力をつけることが大切なんです。助けるって、一歩踏み出す勇気を与えるだけ。俺はそう思っています。

おかげさまで15年間、スタッフと共に駆け込み寺で相談を受けてきました。多くの方に応援して頂いて、まだまだこれからと思っていた昨年、脊柱管狭窄症と頸椎捻挫で4カ月動けなくなりました。体が動かないのでいろいろ考えるうちに、次のことをやらなあかん、そう思うようになりました。

というのも、駆け込み寺に訪れる相談者の問題は大きく膨らんでいて、解決の難しいものが多いんですね。駆け込み寺みたいなものがもっと全国にたくさんあれば、傷が浅いうちに治るというか、立ち直りも早いだろうし。そういう仲間を集めたいと思って、今、全国を飛び回っています。

人を助けるのは手間暇かかります。でも、困っている人に手を差し伸べて、その人に笑顔が戻る――これが本来の利他行じゃないかなと思っています。与えられたいのちをどう生かすか。お呼びがかかれば、全国どこでも伺います。

(3月23日、立正佼成会の法輪閣で行われた人権学習会の講演から)

プロフィル

げん・ひでもり 1956年、大阪市生まれ。2002年、NPO法人「日本ソーシャル・マイノリティ協会」を設立し、DV、虐待、ひきこもり、ストーカー、金銭トラブルなどの問題を抱える人々の救済活動に身を投じる。12年11月、同協会は公益社団法人「日本駆け込み寺」に。14年には一般社団法人「再チャレンジ支援機構」を設立し、刑余者やひきこもりの生活者などの社会復帰を支援する。著書に『もう大丈夫』(ロングセラーズ)、『あなたにYell』(ロングセラーズ)、対談集『エリート×アウトロー 世直し対談』(集英社)など多数。