「死にたい」気持ちと闘っている人の、心の叫びに耳を傾けてください 認定NPO法人国際ビフレンダーズ東京自殺防止センター理事・村明子氏

『「死にたい!」心の叫びに向き合う』をテーマに講演した村氏

私は長年、電話相談員として、「死にたい」という思い(希死念慮)を抱えて苦しむ方々の声を聴いてきました。相談の際、大事にしているの“ビフレンド(友達になる)”という意識です。悩みを打ち明ける方の傍らで、友達のように「そうなんだね」と気持ちを聴き、時には耳の痛いことを言い、ユーモアを交えながら、正直に関わるよう心がけています。

「死にたい」という方は、毎日、どんな気持ちで生きていると思いますか? 希死念慮のある方は「死にたいけれど、死ぬことも、生きることもできない」と、死に憧れながら“生きて”います。一方で、オーバードーズ(大量の薬物摂取)やリストカットを繰り返したり、「私なんか生きている価値はない」などと自殺をほのめかしたりしながら、死にたい気持ちと闘っているのも事実です。

自傷行為で生を実感し、死を口にすることで「私の気持ちに気づいて」とサインを出しているのです。リストカットの傷痕を見ると、皆さんは「大切な体を傷つけないで。ご両親が悲しむよ」などと言いたくなるかもしれません。でも、それでは、相手は「分かってもらえない」と心を閉ざし、さらに死への思いを募らせてしまいます。

「死にたい」の言葉には、「助けて。苦しい。どうしたらいいか分からない」など、心の叫びが含まれています。まずは「死にたいんだね」と受けとめ、「あなたの話はちゃんと聴いていますよ」と伝え、その言葉に含まれた本心に、耳を傾けてください。

以前、「包丁で首を切って死のうと思っている」という電話相談を受けたことがあります。その方に「死んではダメよ」などと言ったら、もう話をしてくれなくなります。「そう決めたんですね。包丁は買ったんですか?」と聞いたところ、「大事なものだから、引き出しにしまってある」と答えてくれました。その包丁を見てどう思うか尋ねると、「いつでも死ねると思って安心する。これがあるから、生きられる」と言われました。話が矛盾していますが、この方は「自殺の準備をすることで生きていられる。包丁はお守りだ」と教えてくれました。

希死念慮のある人を無理やり変えようとする必要はありません。解決策を示すのではなく、「死にたい」とはどんな気持ちなのか、生きる方法があれば生きたいと願っているのではないか、そんな心の叫びに耳を傾けてください。本人がじっくりと考え、本当の自分の心に気づけるような触れ合いを大事にしてほしいと思います。

(9月7日、オンラインで行われた「全国教会長人権学習会」の講演から。文責在編集部)

プロフィル

むら・あきこ 1958年、愛知県生まれ。2001年から自殺防止電話相談員。自治体・民間団体等のゲートキーパー研修、相談員の研修講師を務める。自殺防止の相談現場から、「死にたい」気持ちを受けとめる人を増やす発信を続ける。