【「桃山商事」代表・清田隆之さん】変わりゆく社会と中高年男性たちの葛藤
競争社会の、その先へ
――社会の変化は男性像にどう影響していますか
とにかく働いて国を発展させることが重視された戦後の復興期では、男性が中心となって社会を引っ張っていく仕組みが機能していたのだと思います。ただ、その裏側では、家庭を支える役割の多くが女性に委ねられ、男性の長時間労働はそうした上にありました。その仕組みは、人口増加と高度経済成長という特殊な条件の中で、たまたま成り立っていたものだったかもしれません。
2000年代以降は、郵政民営化など新自由主義の政策が推進され、自己責任論や競争原理を重視する風潮が広まっていきました。「個人が努力し、勝負に勝つこと」が強く求められる社会になったと言えます。
しかし現在は、人口減少や、雇用形態の変化が進み、従来の働き方や男性像は時代に合わなくなってきています。過剰な上下関係や規律が強いられる職場は社会的に通用しなくなり、ハラスメントへの認識が広まることで、無自覚な言動で罰せられるような人も増えてくると思います。

こうした環境の変化に対して、「かつては許されていたのに、今は通用しない」というふうに捉えると苦しさや苛立(いらだ)ちが増してしまいます。そうではなく、「むしろ従来の仕組み自体に無理があった」と考えることで、今後の在り方を問い直す視点が持てるのではないでしょうか。
――男性が生きやすい社会に向けて必要なポイントは
男性同士の関係を見つめ直すことが鍵になると考えます。私たち男性もジェンダーにとらわれているという意識をまず持つこと、そしてそれが、男性同士の関係の中で生まれているケースが多いと認識することが大切です。
しかし、「男性もジェンダー規範に縛られてきた」「自分たちこそ社会構造の被害者なのだ」と、男性側が被害者意識を募らせてしまうのは注意が必要です。そうした感情は、時に政治的に利用され、分断や対立を深める要因にもなります。だからこそ、自分が所属する社会の中で男性である自分がどういった環境に置かれているかに目を向けて、そこでつくられている「男性性」に自覚的になることが重要です。その上で、そこから一歩距離を取り、社会が求める過度な競争から離れてみる意識を持つこと、そして、互いにケアし合えるつながりを育んでいくことが大切でしょう。
例えば、お茶を囲んでたわいない会話を楽しんでみたり、不安を分かち合ってみたり、自分の心が落ち着く時間や環境を持ってみるなど、模索してみてください。また、愚痴を聞いた時には「おまえが弱いだけだろ」と切り捨てるのではなく、「分かる。そんなのおかしいよな」と受けとめることで、連帯が生まれやすくなります。そうした男性同士の関係の変化が助け合いの輪を広げ、女性や若い世代にとっても、生きやすい社会をもたらすと考えています。とりわけ宗教は、人と人とをつなぐ機能を果たしているように思います。男性同士の関係の在り方を考える上での手がかりになり得ると期待しています。
プロフィル
きよた・たかゆき 1980年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。文筆家、またPodcastユニット「桃山商事」代表として、ジェンダー、恋愛、人間関係などをテーマにさまざまな媒体で発信。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。著書に『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』(双葉文庫)などがある。Podcast番組も配信中。
清田隆之さん(桃山商事)の本
『戻れないけど、生きるのだ 男らしさのゆくえ』
太田出版
定価2090円(税込)






