【日本画家・山口暁子さん】人々の心を癒し、希望を与える作品を

想像と思考を働かせ、自らの世界に没入して創作に取り組む(写真提供・山口暁子氏)

芸術は傷ついた世界に光を灯す

――芸術家として自分の役割を見つけられたのですか

はい。その年に私は『大切な人を思い出す話』と題した絵を描き上げました。カズオ・イシグロの小説『わたしを離さないで』を下地にした作品です。小説では、全てを奪われながらもかけがえのない思い出を支えとし、尊厳を保って生きていく人間の姿を描いています。物語に出てくる、無くしたものが全て集うという「ロスト・コーナー」が実在するならば、こんな岬ではないかと思い浮かべました。

これは、震災で大切な存在を失った人たちが、それぞれの思い出を見つけ出すことを祈って描いた絵画です。以後、芸術を通じて人々の心を癒やし、支えていくことが私の願いであり、使命だと強く思うようになりました。

アーティストも、好き嫌いにかかわらず社会の中で自分の役割を全うしなければならない――。現代美術家の杉本博司氏が、同時代を生きる芸術家のあるべき姿を示した言葉です。私の座右の銘であり、いつも心に留めて制作にあたっています。

芸術は、〈人が希望を失わない〉〈絶望の中にあっても光を見いだす〉ために存在する意義があるのではないでしょうか。美しいものは、自然災害や戦争、テロなどで傷ついた世界に希望の光を灯(とも)すと信じています。それを創り出す能力が少しでも私にあるとしたら、ぜひ還元したいと願っています。

2024年夏、米国ニューヨークでの共同展に出展した作品『Day Dream』

――本紙連載は大変好評を博しました。読者に一言お願いします

私は佼成会の会員ではありませんが、紙面を通じて仏教の教えや信者さんの活動を知り、強い感銘を受けました。人間のプラス面の可能性を信じ、他宗教・他者に寛容な面、また開かれた価値観を持っていることがとても新鮮でした。日常の中で一人ひとりが信仰を実践しながら同信の仲間とつながり合う。その“居場所”の一つが貴紙であり、私もその場に参加できたことをうれしく思います。

日本画と仏教美術は密接に結びついています。紙面に掲載された拙作には「祈り」「共存」「利己的でないこと」など、仏教にも通じる事柄を主題とした絵画がありました。仏教的な美意識や倫理観を備えた会員・読者の皆さまには、制作者の私よりも作品の深意をくみ取って頂けたのではないでしょうか。

2年間、お付き合い頂き、ありがとうございました。今後も芸術を通じて社会に貢献できるよう、画業に勤(いそ)しみたいと思います。

プロフィル

やまぐち・あきこ 1974年、東京都生まれ。97年、東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業、サロン・ド・プランタン賞受賞。99年、同大学院修了、紫峰賞受賞。2022年、「絵と言葉のチカラ展」NOBUKO賞受賞。絹に描く日本画の希少な技法を使って制作を続けている。本紙23年4月25日号から本号まで絵画企画を連載した。

◆山口暁子 公式ウェブサイト https://www.akiko-yamaguchi.com/
※展示の情報や過去の作品などを紹介しています