【浄土宗僧侶・西村宏堂さん】LGBTQ当事者の僧侶が説く、自分らしく生きることについて
それぞれの色で輝くことが美しい
――生きづらさを感じる中で仏の教えに救われたことは
日本に帰国後、あるお寺の人に「同性愛はホルモンの異常」という言葉を投げかけられ、悩んだことがありました。しかし浄土宗の教えは、どんな人にも月の光は降り注ぐように、皆が平等に救われると説いています。同性愛者を含めた全ての人が尊いのだと自分を励ましました。
また、仏教は多様性についても説いています。『阿弥陀経(あみだきょう)』の一節に、「青色青光(しょうしきしょうこう) 黄色黄光(おうしきおうこう) 赤色赤光(しゃくしきしゃっこう) 白色白光(びゃくしきびゃっこう)」と出てきます。極楽浄土の池に、青や黄などの蓮が個々の優美な光を放っているように、「一人ひとりがそれぞれの色で輝くことが美しい」という教えです。私が得意とするところで輝いていいんだと、生きる活力をもらいました。仏教は、二千年以上も前から多様性を認めてくれているのです。
――社会に対して伝えたいメッセージは
世界を見ると、同性愛者というだけで罪になってしまう国が60以上、死刑になる可能性がある国は12カ国もあります。LGBTQだけでなく、人種や性別を理由に、自己決定権が与えられない国もあります。生まれた場所や体に関係なく、全ての人が安心して自分らしく生きられる社会になることが願いです。
また、宗教的な価値観で罪悪感を覚えているLGBTQの人たちがいること、女性器切除の慣習のある国が存在することも問題だと捉えています。長い間、受け継がれてきた慣習でも、本当に必要なことなのかいま一度考え、人を守る決断が重要です。その最初の一歩として、宗教指導者の役割も大きいと思います。だからこそ私は、そういった人ともつながり人権の平等を発信し続けていきたい。
そして、この記事は、必ずしもLGBTQの当事者だけがご覧になるわけではありませんよね。いじめや差別に遭っている方、大病を患う人など、誰にも言えない悩みを持つ方もいるでしょう。悲しみや寂しさが溢(あふ)れて心が壊れてしまう前に、同じ悩みを持つ誰かがいることを知る、そして可能ならつながってみる。すると、溜(た)まっていた悩みのダムから水が流れるように解消していくはずです。私がそうであったように。
プロフィル
にしむら・こうどう 1989年、東京都生まれ。ニューヨークのパーソンズ美術大学卒業。アメリカを拠点にメイクアップアーティストとして活動。2015年に浄土宗の僧侶となる。LGBTQ啓発のためのメイクアップセミナーや講演なども行う。21年には、アメリカTIME誌が選ぶ世界の「次世代リーダー」に選ばれた。
著書紹介
『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』 西村宏堂 著/サンマーク出版
定価1430円(税込)
他人と違う自分を受け入れ、好きになり、自分を大事にする生き方を説く。7カ国語で翻訳されている。