【カトリック長崎大司教区使徒座管理者 大司教・髙見三明さん】他者との連帯深め平和を祈り、核廃絶への行動を大きな輪に

一人ひとりが暴力の連鎖を断ち切る勇気を持って

――宗教の役割も大きいと感じます

教皇フランシスコは、2020年に『兄弟の皆さん』と題した回勅を発表し、人種や文化、国などの違いを超えて、一人ひとりが人間としての尊厳を持つ兄弟姉妹であると説きました。この「友愛」の精神は、あらゆる宗教の教えに通じており、終わりのない軍備増強の基にある相互不信を乗り越える重要な鍵となるものです。

被爆地の長崎で、原爆の脅威を伝え、犠牲者の冥福を祈る「平和祈念像」

教皇はこの精神に沿って、イスラームや正教会の指導者などと対話を重ねています。回勅発表の前年には、アブダビでイスラーム・スンニ派最高権威機関「アル=アズハル」のグランド・イマームであるアハメド・アル・タイエブ師と共に、「人類の友愛に関する文書」に署名しました。これは宗教界だけでなく国際社会にも大きな影響を与え、国連は翌20年、文書が調印された2月4日を「人類友愛国際デー」に定めました。

「友愛」とともに、もう一つ大事なキーワードは「連帯」です。宗教指導者が教義や立場の違いを超えて平和のために協力し、例えば核兵器廃絶への行動を起こしていけば、各信徒もそれぞれの場で取り組んでくれ、大きな輪になると信じています。

――国や宗教は違っても、人類を一つの家族と受けとめていくことが大事なのですね

国は国民によって構成されていますから、一人ひとりの考えが重要で、それによって市民社会や国が形作られます。他者に寛容に触れ合う人が増えれば、多様な価値を包摂する社会が築かれ、それがいつしか世界の潮流となって国際社会を変えていきます。核兵器の問題も同じです。一人ひとりが、さらに言えば、まずは自分自身が暴力の連鎖を断ち切る勇気を持たなければなりません。

アメリカ同時多発テロの遺族による家族会「ピースフル・トゥモローズ」のある男性は、政府がイラクへの軍事攻撃を始めようとした時、非難を受けても反戦を訴えたといいます。これは被爆者たちの願いと同じです。決して報復はしない、武力を放棄していくーーまずは自分がそうした道を選ぶことで、平和社会が築かれていくのです。

そうした考えを持つ人が一人でも増えていくように、私も引き続き、他宗教の方々と連帯を深めて平和を祈り、核兵器のない世界を目指して取り組んでいきます。

プロフィル

たかみ・みつあき 1946年、長崎県生まれ。72年に司祭叙階。76年、ローマ・グレゴリアン大学神学修士号取得。84年、パリ・カトリック大学、ローマ・教皇庁立聖書研究所に在籍後、聖書学修士号取得。福岡サン・スルピス大神学院で神学生の養成に尽くし、2002年、教皇ヨハネ・パウロ二世から長崎大司教区補佐司教、翌03年に同大司教に任命される。22年2月に引退、名誉大司教となる。