【カラーユニバーサルデザイン機構副理事長・岡部正隆さん】多様な色覚への理解を深め 暮らしやすい社会の実現へ
配色デザイン改善 色弱に対し配慮を
――CUDの普及活動に取り組み始めたきっかけは?
私も色弱者の一人です。当事者として、これまでも色弱の問題を発信したいと考えていましたが、感覚の問題を言葉で説明する難しさを感じていました。そんな中、2001年に色弱者の色覚をシミュレートする技術が開発されました。これにより、一般的な色覚を持つ人でも色弱者の困難を体感できるようになったのです。これは多くの人に色弱を理解してもらえる画期的なプレゼンテーションになると確信し、シミュレーション画像を使ったCUDの普及活動を本格的に始めました。その後、色弱の仲間を集め、2004年にCUDOを設立しました。現在、CUDの研究と発表、企業や自治体の製品や刊行物に提案やアドバイスなどを行っています。
昨今は色弱者のみならず、加齢による白内障や、緑内障などの網膜の病気で後天的に色覚が変わる人も増えています。全ての人たちに向けた色への配慮が、今まさに求められているのだと思います。
――CUDはどんな所に取り入れられていますか。
色弱者が見分けられない配色デザインを改善するのがCUDの基本ですが、他にもポイントがあります。それは、色の名前を表記すること、色以外の方法で差をつけることです。
身近な例ですと、テレビのリモコンに青、赤、緑、黄の4色のボタンがあると思いますが、赤と緑は色弱者が間違えやすい組み合わせです。そこで私たちは企業に働きかけ、赤と緑の区別がしやすいように色の調節をした上で、ボタンの下に色名を表記してもらいました。他には、電池などの充電器の表示ランプ。これまで充電中は赤、充電完了は緑となる製品が多く、色が変わったことに気づきにくかったのですが、今は充電が終わるとランプが消えるようになり、誰にでも分かりやすくなりました。2014年に新築移転した佼成病院にもCUDが導入されています。目的の場所が一目で分かるよう、診療科ごとに「色」「形」「文字」の3要素でデザインされたサインが作られ、掲示案内板などに使用されています。
――CUDの今後の展望は?
話は少し変わりますが、実は南米に住むサルの多くは色弱です。彼らはジャングルの中で熟れた木の実を判別して食べるのですが、色弱のサルとそうでないサルとで実をとる能力に全く差がないんですね。それは、色弱のサルが色の明暗や形など色み以外の要素で区別しているからだと思います。また、色弱のサルは青みの濃淡に敏感で、エサとなる昆虫を捕まえることにおいては色弱でないサルよりも上手なくらいです。
人間にも同じことが言えます。色弱はその人の個性の一部であり、人と異なる色覚を持つことが、周囲より劣ることになるとは私は思いません。色弱者が社会の中で少数派であり、周囲への理解が広まっていないことが問題なのです。一般的な色覚を持つ多数派の人たちは、色弱を知り、CUDを進めていく。そして少数派の色弱者は、社会の中で生活する自分なりの知恵を身につける。そうやって両者が歩み寄る努力をすれば、全ての人が暮らしやすい社会の実現は可能だと思います。
私も今、医師の免許を持ち、大学で教鞭を執っています。色弱者でも、周囲の理解と自分の工夫次第で問題なく社会生活が送れることを、私の姿を通して知ってもらえたらうれしい。CUDのことが専門家や色弱者の間だけでなく、広く多くの人に伝わっていくことを願っています。
プロフィル
おかべ・まさたか 1969年、東京都生まれ。東京慈恵会医科大学解剖学講座教授。自らも色弱者であり、色覚の違いにかかわらず、全ての人に正確な情報が伝わる色遣い「カラーユニバーサルデザイン」の普及活動を行う。NPO法人「カラーユニバーサルデザイン機構」副理事長。