【被災地障害者センターくまもと事務局長・東俊裕さん】「災害弱者」をつくらない 障害者と共にある社会へ

熊本地震が発生する2週間前、障害者に対する差別の禁止と、障害に応じた配慮(合理的配慮)を行政に義務付ける「障害者差別解消法」が施行された。災害時にも適用されなければならなかったが、熊本地震での行政の対応は不十分だったと、弁護士の東俊裕氏は指摘する。自らも被災する中、被災地で孤立する障害者の支援に取り組んできた。東氏に、「災害弱者」をつくり出さないため、熊本地震から見えた課題について聞いた。

熊本地震で見えた課題 本当に必要な支援とは

――熊本地震から1年。復興の状況は?

障害者に関して言えば、一般より遅れて少しずつ進んでいる感じです。支援を求めるSOSは途切れないのが現状です。

地震で住めなくなった家は公的な費用で解体されるのですが、家財道具は所有者が自力で処分しなければなりません。こうしたことは障害者には難しいため、家財道具の処分や引っ越し、荷物の運搬といった支援要請が続いています。

また、地震で家を失った方には仮設住宅、自治体が民間の賃貸住宅を借り上げて提供する「みなし応急仮設住宅」のほか、公営施設の空き部屋などが提供されます。一般の方は、家族構成に応じた住宅であればどこでも暮らせますが、障害者に同じものが提供されても、生活できないことがあります。

例えば、僕のように車椅子利用者であれば、バリアフリーでなければ暮らせませんし、発達障害児を持つ家族の場合は、お子さんが落ち着けるような一定の空間が必要です。また、精神障害者の中には、家族や地域との関係が絶え、寂しさからペットと暮らす方もいますが、ペット入許可の住宅はほとんどありません。同じ造りの建物が並ぶ仮設住宅に視覚障害者が入居すると、自宅の判別が難しく、結果、閉じこもりがちになるといった問題もあります。新しく住む場所はおおかた決まってきたものの、依然として課題は多いのです。

――勤務する熊本学園大学も避難所になったそうですが

昨年4月16日の本震の後に大学へ行くと、すでに700人くらいの人たちが避難していました。その中に、近所の障害者団体の人々を含めた50~60人の障害者、介護を要する高齢者がいました。彼らが落ち着けるように、開放していなかった講堂に体操用マットを敷き、休む場所と通路を作りました。演壇にはテントを張って学生を待機させ、何かあればすぐ駆けつける体制も整えたのです。

災害が起きた時、被災者は避難所に集まりますので、行政も民間団体も、大量の物資と多くの人材を避難所に送ります。そのため、緊急支援や復興に向けた情報は避難所に集中することになります。

ところが、障害者はその起点たる避難所にいられない方が多いのです。なぜなら、避難所には車椅子トイレがありません。配給などの情報が声のみで伝えられて聴覚障害者には分からない、視覚障害者は誘導なしで移動して人の体を踏んでトラブルになる、騒然とした中で配給の列にじっと並べない発達障害の子供には水や食料が提供されない、といったことが起こるためです。東日本大震災の時にも、いったん避難所に来たものの、自宅に戻らざるを得ない障害者は多くいました。障害者は「災害弱者」となり、避難所から始まる公的支援の網の目からこぼれ落ちてしまうのです。

ですから、大学の避難所は、障害者だけでなく、高齢者、乳幼児、外国人も含め、それぞれのニーズに目を向け、それらに応えられる支援をしよう、これまでの現実を変えよう、という気持ちで運営に取り組みました。

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