【弁護士・指宿昭一さん】外国人技能実習制度をこれ以上、人身取引の温床にしないために

彼らを安価な労働力ではなく、共に働く仲間として迎えたい

――指宿弁護士は「技能実習制度が人身取引の温床になっている」と指摘されています。この制度のどこが問題なのでしょう?

この制度を支えている考え方――安価な労働力として外国人を都合良く使い、不要になれば帰国させるという「使い捨て」の考えが社会に蔓延(まんえん)していることが、まずは大きな問題だと思います。

日本は80年代の後半に、外国からの単純労働者を受け入れないという方針を決めました。しかし、現実には、少子高齢社会に向かうにつれ、中小零細企業や過疎地域の農家などで労働者不足が深刻でしたから、「本音」と「建前」を使い分けて、労働者を受け入れてきました。技能実習制度もその一つです。「技能、技術の移転を通じた国際貢献」という建前を掲げていますが、実際は安価な労働力の確保が本音であることは明白です。労働力確保が目的であるのは周知のことであるのに、国際貢献という美名を掲げていること、しかも、人身取引の温床になっていることが第一の問題点だと思います。

第二は、職場を変わる自由がないことです。労働者にとって、職場が自分に合わなければ、そこを辞めて他所(よそ)に移る自由が保障されなければなりません。法律違反のある職場であればなおさらです。しかし、この制度では、3年間など定められた期間、同じ場所で働き続けなければなりません。

第三の問題点は、ブローカー(仲介業者)の介在が制度で定められており、実習生が日本に来る時に、ブローカーが介在して中間搾取し、人権侵害に当たるルールを実習生に強制的に課すケースが多いことです。送り出し国のブローカーは「送出機関」、日本側のブローカーは「監理団体」と呼ばれます。送出機関は、例えばベトナムでは手数料として約100万円を実習生から徴収します。ベトナムの平均年収の3~4年分に相当し、実習生は借金して来日するのです。人権侵害のルールとは、受け入れ企業で問題が生じても弁護士やマスコミ、労働基準監督署に相談しないこと、妊娠・出産の禁止などで、「破れば即帰国」という契約もそれに当たります。

――技能実習生の失踪が問題になっています。この中にも人身取引の被害者はいるのでしょうか

2018年に国会で出入国管理法(入管法)改正案が争点になった時、これについて議論がなされました。入国管理局(入管)は当初、最低賃金は守られており、失踪の理由はより高い賃金を求めてのケースが多いと説明しました。しかし、国会議員が入管から提示された資料を調べると、失踪者の多くが最低賃金以下で働かされていたことが分かりました。私の感覚でも、企業側による労働基準法違反が元で失踪したケースが多いと感じます。

受け入れ企業から逃げれば、契約違反や不法滞在になってしまう――それが分かっていても逃げるということは、実習生が相当追い詰められている証拠です。

――私たち日本人一人ひとりが意識すべきことは?

日本に来て働いてくれる外国人労働者は、私たちの仲間であり、同じ職場や地域、日本社会を支えてくれる人たちです。皆の尊厳を大切にし、権利を尊重し合って仲間として接することが大事です。

今後、アジアでは労働力の奪い合いになるといわれています。技能実習制度の悪評はアジアで広まっていますから、このままでは日本に人材が来なくなると思います。

私たちは、意識を変えていかなければなりません。外国人を迎えるのなら、文化や言語の違う人たちと共生する方法を模索し、多文化共生を基本にした制度をつくっていくことが不可欠です。

私は、日本の市民が差別や人権侵害についてとりわけ鈍感だとか、ゼノフォビア(外国人嫌悪)が社会に浸透しているとか、そうは思いません。ただ、多くの人は実態を知らないので、問題に目を向け、知ってもらえれば、改善の声が上がるはずですし、実際に上がってきてもいます。特に若い人たちの間で、そうした意識が芽生え、動きがあるのは一つの希望です。

日本で起きている外国人労働者の問題、さらに日本の難民の受け入れや処遇に関する問題と向き合い、自分たちの意識や、問題の原因と改善の方法について話し合って頂きたいと思います。日本の市民に、社会を変えていく力があると信じています。

お知らせ
今年3月に入管施設で死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんの死亡の真相究明を求めるオンライン署名とカンパを行っています。
署名はChange.org内「#JusticeForWishma 名古屋入管死亡事件の真相究明のためのビデオ開示、再発防止徹底を求めます」
カンパはhttps://wishmalawyers.wordpress.com/

プロフィル

いぶすき・しょういち 1961年、神奈川県生まれ。労働事件や外国人事件を専門とする。日本労働弁護団常任幹事、外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表、外国人労働者弁護団代表。今年7月、米国務省から、人身売買と闘う「ヒーロー(英雄)」に選ばれた。著書に『使い捨て外国人――人権なき移民国家、日本』(朝陽会)、『リアル労働法』(共著・法律文化社)。