【上智大学教授・根本敬さん】クーデターから7カ月 今、ミャンマーは

ミャンマー北部ミッチーナで治安部隊に立ちふさがり、ひざまずき、祈るシスター(写真提供=ラジオ・ベリタス・アジア= Radio Veritas Asia)

社会が混乱、新型コロナ蔓延は深刻化 どんな事態でも諦めず、困窮する人々に支援を

――これまでの国際社会の動きは?

国際社会は仲介を試みています。通常、複数の国内勢力が対立し、国家が十分に機能しない時に仲裁を試みるというのは、外交として正しい手法だと言えます。

しかし、現在のミャンマーのように、国軍と国民が全面的に対立し、国軍側に何ら支配の正統性がない場合、こうした手法は通用しません。仮に、国軍とアウンサンスーチー氏やNUGのメンバーを含む当事者全員が集う場をつくることができても、あるいは仲介者が当事者全員と個々に会える機会を設けることができても、もしそこで全面対立する両者の言い分を「足して2で割る」ような和解案を提示したら、国軍は拒否し、NUG側も拒否するでしょう。ミャンマー国民も絶望するだけです。

国軍に近い関係にあると考えられていたロシア、中国もいまだクーデター政権を承認していません。彼らとて、暴力的に政権を掌握し、国民の支持を受けない政権を簡単に政府承認できないのです。従って、現状ではミャンマーの人々がどのような思いでいるのかをよく理解し、彼らを支える方向で行動することが最も重要だと思います。
 
――ミャンマーでは人道支援が求められています。どのような方法が考えられますか?

社会の混乱とコロナ禍の極端な悪化に直面している人々への人道支援は必要です。ただ、医薬品や物資を提供する際、よほど的確にチェックしないと、必要としている人に届かずに、国軍に渡ってしまう可能性があります。日本政府は国際機関を通して支援していますが、国内は国軍の統治下にあるも同然ですから、細心の注意が求められます。

民間人の私たちが国軍の影響を受けずに支援する方法としては、隣国タイのNGOや、信頼できる在日ミャンマー人の支援ネットワークと連携することが現実的です。現状ではヤンゴンへの支援は国軍の妨害のため難しい面がありますが、少数民族の居住区や大量の避難民が出ている国境地帯への支援は、一定程度可能です。ただしミャンマー国内の具体的な支援ルートについては、まだ明かすことはできません。

また、国軍から差別や迫害を受け、バングラデシュに逃げたロヒンギャ難民も今回のクーデターの犠牲者です。国軍が政権を奪ったため、帰還の可能性がなくなりました。国際機関による難民キャンプへの支援は続いていますが、民間の寄付は減っています。重要な支援先として考えるべきでしょう。

――このほか、日本で私たちができることはありますか?

ミャンマーの人々のことを忘れないこと、どんな事態でも諦めないことです。それはまさに祈ることにつながります。祈りを通して、忘れない、諦めないことが大事だと思っています。そうすれば、熱しやすく冷めやすいメディアの報道が減っても、私たちの関心が消えることはなく、ミャンマーの人々を支えることにつながります。

もう一つは、日本政府への働きかけです。国会議員の中には理解のある人が増えていますが、政府の方は有効な手だてが打てず、クーデター政権を支援しかねないODA(政府開発援助)を止めることもできていません。こうした状況が、ミャンマーの人々の目にどう映るかを考えてほしいところです。

私はキリスト教を信じる者として、絶望の中にも希望を見いだしたいと思っています。ミャンマーにおける人々の不屈の抵抗運動から学ぶことは多くあります。Z世代のミャンマー人は、クーデター以前は世の中がよくなるのに合わせて、自分の人生をよりよきものにしようと考えていた普通の若者です。それが2月1日以降、「他人事(ひとごと)」だった政治が「自分事」になり、よりよい社会をつくろうと必死に行動しています。日本に住む私たちにとって学ぶべきことがあるのではないでしょうか。ミャンマーだけでなく世界各地で生じている深刻な状況は、私たち日本人一人ひとりの問題でもあることを肝に銘じたいものです。

プロフィル

ねもと・けい 1957年生まれ。ビルマ近現代史を専門とする。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授などを経て、現在、上智大学総合グローバル学部教授。『物語 ビルマの歴史 王朝時代から現代まで』(中公新書)、『アウンサンスーチーのビルマ 民主化と国民和解への道』(岩波書店)など著書多数。