【国連WFP日本事務所代表・ 焼家直絵さん】「なくても与える」――私たちが今、学ぶべき大事な共助の精神
飢えに苦しむ人を一人でも減らすことが平和への第一歩
――国連WFPは昨年、ノーベル平和賞を受賞しました。過酷な現場にも足を運び、支援に取り組んできたことが評価されたと思います。これまでの経験を通して、今、多くの人に伝えたい思いとは?
飢餓は、食料の争奪を起こし、新たな紛争をもたらします。飢餓の解決は紛争の原因を取り除くことでもあります。国連WFPのスタッフは紛争下や自然災害に見舞われた過酷な場所にも出向き、苦しんでいる人々に食料を届け、支援に努めてきました。平和の礎を築きたいと活動してきたことが評価されたのだと感謝しています。ノーベル平和賞を受賞したことで、「飢えに苦しむ人を一人でも減らすことが平和への第一歩」というメッセージが多くの人に伝わっていけばと願っています。
私は以前、ミャンマーやブータンなどに勤務していた時、地元の方から教えられたことがあります。それは、「共助」の精神です。彼らは、寄付や支援は、自分に余裕があるからするのではないというのです。ミャンマーの難民キャンプで暮らす人たちの多くは、わずかなお金しか持っていませんでしたが、それを工面して教会や障害者施設などに寄付していました。
ブータンの人たちも同じでした。町はホームレスが一人もいなくて、孤児院もありません。その理由を尋ねると、彼らにとって困っている人を助けるのはごく当たり前のことだったのです。ですから、お年寄りが誰からも関心を示されずに、孤独に死ぬことはないし、血のつながらない子供を他の誰かが引き取って同居するのがごく自然な光景でした。
寄付や支援は、相手だけでなく、その行いをする人の心を豊かにするのだと思いました。「なくても与える」――これこそ、私たちが今、学ぶべき大事な共助の精神ではないかと思うのです。
食は、人間の命を支える欠かせないものです。世界中に食が行き渡るようになって初めて、平和な社会が訪れるといっても過言ではありません。一人でも多くの人々に食料が届き、苦しい生活を送る人々が安心して暮らせるよう今後も努めていきたいと思います。
プロフィル
やきや・なおえ 広島県生まれ。2001年から国連WFPローマ本部でジュニア・プロフェッショナル・オフィサーとして国際機関支援調整を務めた後、ブータン、スリランカ各事務所にてプログラム・オフィサー、支援調整官として勤務した。09年から日本事務所で資金調達を担当。13年にシエラレオネ事務所副代表に就任し、エボラ緊急支援などを指揮。ミャンマー副代表を経て、17年から現職。