【恵泉女学園大学学長・大日向雅美さん】コロナ禍での子育てや暮らし 不安やストレスを減らすには
新型コロナウイルス感染症の流行が長期化し、自宅で過ごす時間が長くなっている。子育て家庭では、家事、育児の負担が母親に偏り、ストレスや悩みを抱える人が増加しているという。NPO法人「あい・ぽーとステーション」の代表理事を務め、長年にわたり地域の子育て支援に取り組む恵泉女学園大学の大日向雅美学長に、コロナ禍での育児による不安との向き合い方、心がけるべきことなどを聞いた。
母親が育子疲れに陥る前に、心身のゆとりを保てるよう
――長引く自粛生活で、子育て家庭へどんな影響がありますか
現在は世界中の人々が、毎日の感染状況の報告に一喜一憂している状態です。皆が安心して暮らせるまでにはまだ時間がかかります。
日本では多くの家庭で、家事や育児の大半が母親に偏る傾向がありますから、家族が自宅で過ごす時間が増えるとともに、母親の負担が大きくなっています。特に、父親が家庭のことを任せきりの場合、母親はこれまで以上にストレスやつらい気持ちを一人で抱えがちです。
「あい・ぽーとステーション」が運営する子育てひろば「あい・ぽーと」では、2004年から「理由を問わない子供の一時保育」を行っています。これは、母親が深刻な育児疲れに陥る前に、気分をリフレッシュして心身のゆとりを取り戻し、子供と再び向き合ってもらいたいとの願いで始めたものです。
ただ、昨春に緊急事態宣言が発令されて以降、感染拡大を防ぐために各地で「不要不急の外出自粛を」と呼びかけられるようになり、「あい・ぽーと」でも、行政からの指示で一時保育利用申し込みの際に、「不要不急ではない」ことの確認をさせて頂きました。ですが、多くの母親が「はい。不要不急です」とすぐに答えられなかったのです。心身に何らかの症状が出る前にゆとりを取り戻すことは必要なことなのですが、国内で死者や失業者が増えているのに、子供から離れる時間など不必要だと言われているように感じたのでしょう。
以来、「あい・ぽーと」では利用理由をお聞きすることはやめました。すると以前にも増して、「開いていて本当に助かった」「閉鎖しないでください」という声が多く寄せられたのです。それだけ追い込まれて助けを求める方がいたのだと思います。
私は、子育て中の親のニーズは常に「必要緊急」だと考えます。特に幼子を持つ母親は、一年中、休みなくわが子と向き合っています。その最中で子供から一時的に離れたいというのは、健全な精神を保つために必要な時間であり、決して「わがまま」ではありません。コロナ禍で子供を預けられない環境にある人もいますので、周囲や社会が理解し、サポートしていく大切さを強く感じています。
――今は人との触れ合いを控えなければなりません。子育てで心がけるべきことは?
子供は、親を含めた他者に抱かれたり、触れられたりすることで愛情を感じ、心も成長していきます。触れ合いが難しい今、「マスクをして離れて話して」「人に触ってはダメ」と言うだけでは、子供に人間は汚いと思い込ませてしまう危険性があります。感染対策を徹底するのは大切な人を守るためであることを、家庭でも園や学校でも繰り返し伝えることが大事でしょう。
また年末年始に帰省できなかった家庭が多く、子供たちは祖父母に会えずに寂しかったことでしょう。でも、その分、祖父母に思いを寄せることはできるように感じます。
「あい・ぽーと」の利用者に伺うと、SNSのビデオ通話機能を使って顔を見ながら話すことで、祖父母への思いを強めた子供たちが多くいました。また親自身も、オンライン通話という限られた時間の中で精いっぱい話を聞いたり語り合ったりすることで、祖父母の優しさや思いやりをたくさん感じたといいます。
また自粛生活を「家族が一緒に居られる貴重な時間」と捉えて、工夫した家庭もあります。ある母親は、コロナ禍でアルバイトができなくなった高校生の子供に対し、家でのアルバイトとして三食を作ってもらいました。すると、子供はインターネットなどでレシピを集めて、和洋中の料理を作れるようになったそうです。食事の感想を伝えるなど、家庭での会話も増えて楽しいだろうなと思います。
これらは一例ですが、不自由を強いられているからこそ、今、何を大事にしようかと家族で話し合うことが大切なのではないでしょうか。
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