【水中考古学者・山舩晃太郎さん】悠久の歴史を今に伝える 世界の海洋の沈没船を研究

メキシコ沖で発掘調査にあたる山舩さん ©Alfredo Martines Fernandez

3Dデジタルデータで保存 水中遺跡を後世の人たちに

――水中考古学の可能性について教えてください

あらゆる可能性があると思います。水中遺跡はものすごく保存状態がいいんですね。沈没船が海底の泥に覆われると、内部は無酸素状態となり、遺物が腐食せず保存されるからです。

例えば、海沿いのコンビニエンスストアが環境の変化で水没し、土をかぶって数千年もの間、無酸素状態で残ったとします。数千年後の人がこのコンビニを発掘したら、大発見ですよね。私たちがどんな食事をしていたのか、どんな飲み物を飲んでいたのか、どんな漫画を読んでいたのか、ファッション誌もあるので、どんなファッションをしていたのかなど、一目瞭然で分かるからです。コンビニの水中遺跡によって、私たちの暮らしぶりが後世に伝わります。水中考古学は、これと全く一緒なんですね。

沈没船という水中遺跡からは、さまざまなものが陸上の遺跡では考えられないような良好な保存状態で発見されます。さらに、これらの遺物を最新の科学技術で研究することにより、積み荷がどこで製造され、どこの港からどこの港に向かっていたかというところまで分かります。すなわち、何千年前の人々の交易の様子が沈没船を研究することにより、明らかになってくるのです。沈没船はまさしく悠久の歴史を今に伝える「タイムカプセル」と言ってもいいのかもしれません。

水中での測量は地道で過酷な作業だ ©Alfredo Martines Fernandez

――今までの発掘調査で印象に残っている水中遺跡はありますか

一番印象に残っているのはギリシャの遺跡です。水中考古学者を志した私が、一番憧れていたのがエーゲ海の発掘風景でした。もともと16世紀の中世ヨーロッパの船を専門に研究を進めていたので、ギリシャのプロジェクトリーダーから「手伝ってくれないか」と言われた時には手放しで喜びました。かつて図鑑の中で見た風景を体感できると思ったからです。

エーゲ海東部のフルニ島周辺では、約45平方キロメートルの海域で58隻の沈没船を確認することができました。一般的に、木造船が沈没すると、水中で腐敗したり、フナクイムシなどに食べられたりして消えてしまい、積み荷の「アンフォラ」だけが残ります。アンフォラとは、この地方で広く用いられていた陶器の壺(つぼ)です。どの船も数百個のアンフォラを積んでいました。

狭い海域でこれだけの数の沈没船が発見されたことと同時に、船の沈没時期が重なっている点も驚異的でした。これにより、東地中海における交易ルートと航海技術の発展について新たな知見がもたらされました。この海域では、さらなる調査が計画されていて、今後も多くの発見が続く見込みです。

――今後の夢は何ですか

私はこれまで世界21カ国でさまざまなプロジェクトに参加してきましたが、いつまでもフィールドワークを続けていきたいですね。そして、フォトグラメトリーの技術を生かして、世界中のあらゆる水中遺跡を3Dデジタルデータとして保存できるシステムを構築し、後世の人たちに正しい歴史を伝えていきたいと思っています。

プロフィル

やまふね・こうたろう 1984年、秋田県生まれ。法政大学文学部史学科を卒業後、海事考古学における世界最高峰の研究機関であるテキサスA&M大学大学院に留学。同大学院で修士号と博士号を取得。西洋船(古代・中世・近代)を主たる研究対象とする考古学と歴史学の他、水中文化遺産の3次元測量と沈没船の復元構築が専門。