【財政社会学者・井手英策さん】痛みも喜びも共有し合う 経済社会の実現に向けて

共感する気持ちを再生し、社会保障制度を見直す

――全ての人が安心して暮らせる社会にするには?

社会保障や教育を見直し、みんなに共通の必要なものについて地方自治体で一から話し合い、必要なもののために税金を払う仕組みをととのえることです。みんなにとって必要なものをみんなで負担し合うことで、貯金が減っても、経済が成長しなくても、安心して生きていける社会を実現できます。

地方自治体でもこうした意識は芽生え始めています。ある県の職員さんに、県内の18歳以下の子供の医療費を全て無償にするために、県民一人当たりいくらの税金を払えば実現できるかを試算してもらったのですが、年間約700~800円程度のお金を支払うことで賄えるという結果でした。どの子も平等に医療サービスが受けられ、全ての親が医療費の心配をすることのない社会が、数百円の納税で実現するのです。この程度ならば、賛同してくださる方は多いのではないでしょうか。

もう一つの手段として、「シェアリングエコノミー」という考え方もあります。不要になったものを欲しい人にあげる、タクシーの代わりにご近所さんに安い値段で相乗りさせてもらうなど、既にあるものを活用していく方法です。国内総生産(GDP)にはあらわれませんが、くらしは維持されることになります。

――分断のない社会のために宗教者一人ひとりにできることはありますか。

どの宗教も個人の利益を追求するものではなく、時空を超え、さらには宇宙や地球という境目さえ超越するようなスケールで物事を捉え、普遍的な価値を追い求めるものだと思います。だからこそ、信仰を持つ方々にはぜひ、損得勘定を抜きにして、日本全体が共同体であるという意識をリードしていってほしいと願っています。

同時に、誰もが、日本人に根づく「分断を生みやすい精神性」を持っていることを忘れないでください。“日本人らしさ”の中には良い面と悪い面があります。生活保護受給者をバッシングするなど、弱者に疑心暗鬼になりがちな日本人としての心も持ち合わせていると自覚することが大切だと思います。

自分と神仏との関係の中で、普遍的な価値を求める自分と、他者を批判してしまう自分とを対話させながら、みんなが幸せになり、痛みも喜びも希望も不安も分かち合うような社会の実現について考えていきませんか。

私は、経済を再生させる前に、まずは他者の痛みを自分の痛みと思える、共感する気持ちを再生したい。そして、貧しい人も年金受給者も含め、みんなが税を払い、みんなが受益者となることで、「取られる税」から「くらしのための分かち合い」へ転換したいと思っています。

プロフィル

いで・えいさく 1972年生まれ。慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学と財政金融史。朝日新聞論壇委員、地方税財政制度研究会構成委員を務める。著書は、2015年度大佛次郎論壇賞を受賞した『経済の時代の終焉』(岩波書店)や『18歳からの格差論―日本に本当に必要なもの―』(東洋経済新報社)など多数。