【東洋大学名誉教授・森章司さん】釈尊の生涯と教団の形成史 28年間の研究で明らかに
――研究では、どのような方法を用いたのですか
まず、1万2000を超える聖典にあたり、「年代を特定できるもの」「年代を特定できないもの」「一定の幅をもって推定できるもの」に分けました。
加えて、「事績そのものについて記すもの」「成道以前の事績を回想するもの」などに分類し、集積したものをパソコンに入力してデータベース化しました。パソコンを活用できたのは大きかったですね。これにより、「舎利弗が登場する聖典であれば、舎利弗がお釈迦さまに先立って亡くなった年よりも早い年代に説かれた教えだと特定できる」というように、事績を年代順に並べていく作業をスムーズにできたのです。
この研究と同時に進めたのが、釈尊教団の形成史についてです。教団というのは一朝一夕で出来上がりません。帰依する人が増えるにつれて、大人数の比丘(びく)をまとめる、教えを正確に伝えるために、戒律が制定されたり、改められたりしますので、その経緯に注目して年代を特定しました。
「原始仏教聖典を歴史文献として扱う」「釈尊の生涯と釈尊教団の形成史を重ねて研究する」という2点は、研究チームの独創的な視点です。加えて、「釈尊や仏弟子たちは当時どのような生活をしていたか」に注目し、行動パターンを分析することで事績の年代の特定を試みました。
例えば、インドには雨季があり、釈尊が活動されたガンジス川一帯はこの間、水浸しになり、釈尊や弟子たちは遊行を避け、「雨安居(うあんご)」といって1カ所に留(とど)まります。ですから、雨季の前後には各地から仏弟子たちが、事前に定められた場所に集まり、戒律の変更や教えを確認する集いが開催されていました。前述した2点を基に研究を進めると、制定された戒律や登場人物などから「この出来事は、釈尊が何歳の時のことだ」と推測できます。こうした作業を丁寧に根気よく続けることで、釈尊の生涯が少しずつ解明されていきました。
この壮大な研究を続けられたのは、立正佼成会の皆さまのおかげです。真心の浄財を活用させて頂けたことに、改めて感謝申し上げます。