【東洋大学名誉教授・森章司さん】釈尊の生涯と教団の形成史 28年間の研究で明らかに

釈尊の年代史と釈尊教団の形成史がこのほど、森章司・東洋大学名誉教授を中心とする研究チーム「釈尊伝研究会」により、世界で初めて明らかになった。同研究は、立正佼成会の付置研究所である中央学術研究所の委託により行われたもの。研究チームは、今年11月に28年間の研究をまとめた刊行物を発表する予定だ。また、森氏は現在開催中の開祖記念館企画展示「お釈迦さまを支えた在家信者たち」(主催・同研究所開祖顕彰資料室)の監修を務める。森氏に、長年の研究の取り組みと、明らかになった釈尊の生涯などについて聞いた。

研究チームの独創的視点 根気よく向き合い成果を

――これまで、釈尊の伝記が存在しないとは知りませんでした

私たちが調べたところでは、ゆうに100冊を超える「釈尊伝」「仏伝」を冠した書物が国内外で出版されています。しかし、これらは釈尊が成道する前の事績を神話化した「仏伝文学」を基とするものや、また、釈尊の成道、涅槃といったこと以外は年代記になっていないものばかりです。80年にわたる釈尊の生涯を時系列で記した書物は、入滅から約2500年を経た現在も存在しません。

こうした状況になったのには理由があります。『法華経』を含むすべての聖典は、「如是我聞(にょぜがもん)。一時佛(いちじぶつ)……」という形で始まります。これを日本語にすると、「このように私は聞きました。ある時、仏さまは……」となります。

つまり、膨大な数の聖典が残されていても、それらに具体的な日時が記されていないため、釈尊の生涯を年代順に再構成することができなかったのです。これは、釈尊教団の形成史についても同様です。

一方で、釈尊が入滅して約300~400年後にまとめられた原始仏教聖典には、年代以外の、「釈尊がどこで、誰に、どのようなシチュエーションで、どのような説法をしたか」といったことが詳細に記されています。そこには舎利弗(しゃりほつ)、目連や摩訶迦葉(まかかしょう)をはじめとする個性豊かな弟子たちが登場しますし、祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の建設、比丘尼(びくに)の誕生といった教団にとって重要な出来事の記載もあります。つまり、漢文やパーリ語に訳された原始仏教聖典は釈尊の言行録であり、それらを私たちは歴史文献として扱いました。記された人物、事象から年代を推測、検証していけば、釈尊の生涯と教団の形成史が浮かび上がってくるのです。

そこで私と4人の研究者は、中央学術研究所の委託を受け、平成4年から「原始仏教聖典資料による釈尊伝の研究」に取り組みました。

【次ページ:釈尊の生涯を明らかにした方法とは】