【グリーフサポートステーション「サンザシの家」代表・藤田尋美さん】喪失体験で悲嘆抱える一人ひとりに耳を傾け

子どもたちが自らのグリーフと向き合うために

――サンザシの家では、どのようなプログラムを?

悲しみや嘆きといった感情「グリーフ」は、簡単に克服できるものではありません。時間をかけて受けとめ、一生をかけて付き合っていくものですから、その手助けとなるプログラムを実施しています。死別だけでなく、離別の体験を持つ子どもも対象にしているのが、サンザシの家の特色です。

自分の感情を受け入れるには、まず自身の内面と向き合う必要があります。しかし、特に子どもは、自らの心の状態を理解することができません。心にモヤモヤが渦巻いても、その正体が分からないのです。それでも、駄々をこねたり、泣きわめいたり、できる表現を駆使して自分を分かってもらおうとします。実は、これが大切な行動です。子どもは安心して自分の感情をぶつけられる人との触れ合いを通じて、自らの心と向き合うことができるようになります。ですから、健全な成長には周囲の理解が欠かせません。

一方、こうした子どもの行動に、大人が「泣いてはいけない」「我慢しなさい」などと言って無理に押さえつけてしまうと、子どもは傷つきます。そうした経験が繰り返されると、子どもは心を閉ざし、他人との交わりを恐れ、暴力的になることさえあります。

サンザシの家では、子どもたちが自分の体験や現在の状況、さらに心のモヤモヤを自由に表現しても大丈夫だと感じてもらいたいと思っています。現在、離別を経験した子、死別を経験した子に分けて、それぞれのプログラムを月に1回実施しています。参加者同士で遊び、おやつを食べ、絵本を読み聞かせるなどして、子どもたちがグリーフと向き合いやすくなる時間が過ごせるよう、配慮しています。

プログラムのはじめに自己紹介の時間を設け、死別の場合は誰をどのような理由で亡くしたのか、離別の場合は誰と離れて暮らしているのかを分かち合います。それぞれが同じような体験をしていると分かれば、つらい思いをしているのは自分だけではないという安心感が生まれるからです。自分の気持ちを表しても良いと分かっていても、親の目を気にしてしまう子もいるので、プログラムは子どもだけで行います。そうした安心できる雰囲気をつくりながら、読み聞かせの時は、死別や離別をテーマにした本を選び、ふとした時に、子どもたちが自身のグリーフに向き合えるよう工夫しています。

――子どもたちが素直に気持ちを表現できるように工夫していることは?

人は、「気づき、考え、行動する」という段階を踏んで、自身のグリーフを受け入れ、付き合っていくことができます。しかし、普段から<親を困らせたくない><怒られないようにしなきゃ>と気を配る“いい子”ほど、怒りや悲しみといった「負の感情」を表現してはいけないと考えがちです。私たちはまず、子どもがそうした感情に気づき、我慢する必要はないと分かってもらうことを大事にしています。

「火山の部屋」。サンドバッグや人型クッションを殴ったり蹴ったりして心のモヤモヤを発散させる

この出発点である「気づき」ができれば、子どもは心を落ち着かせようと、その方法を考えるようになります。気づき、考え、行動する――この一連の過程を後押しする意味で、施設内には、遊び部屋とは別に、サンドバッグや、大きな人型のクッションを用意して、安全に殴ったり蹴ったりできる「火山の部屋」を、自由に感情を発散できる場として設けています。

ある小学3年生の男の子が、プログラムを終えて帰宅する際、父親に「俺、ちょっと発散してくるわ」と言って、火山の部屋に向かいました。サンドバッグをガンガン蹴った後、「すっきりした!」と言い、晴れやかな顔をして帰っていきました。彼は普段から面倒見のいい子で、その日はずっと、一緒に参加していた幼児の遊び相手をしていました。きっと、遊び足りないままプログラムが終わって満足できなかったのでしょう。彼は我慢していた自分の感情に気づき、今ある環境の中で心を安全に落ち着かせる方法を考えて、行動に移したのです。彼の成長を感じる出来事でした。

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