楽生(らくいき)~楽に生きるを極めるヒント~(4) 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子

モヤモヤを消す魔法 ②1分間のメモで扉が開く
今回は、私自身の体験からお話ししたいと思います。
私は明石高専の建築学科を卒業後、テントメーカーで約3年半、設計の仕事に携わりました。当時は、若気の至りで「やりたい仕事ができる場が見つからないなら、自分でつくろう」と思い立ち、1983年に株式会社を設立しました。
目指したのは、みんなが笑顔でいられる空間づくり。最初は一級建築士事務所として、やがて人が自然と笑顔になるイベントのプロデュースを手掛けるようになりました。さらに「笑えない人に笑顔を届けたい」と、ケアリングクラウン(病院などを訪問する道化師活動)に取り組み、日本笑いヨガ協会を立ち上げたのは2009年です。笑いの力を社会に届けることが、私のライフワークとなったのです。
活動は全国に広がり、講演や講座でたくさんの人と笑い合う日々を送りましたが、2020年、コロナ禍が発生。人と会うこと、笑うこと、歌うことまで「避けるべきこと」とされ、活動は一気にストップしました。
誰もが不安を抱える中、私もまた、どうしていいかわからない状況に初めて直面しました。オンラインなど、できる限りの工夫はしましたが、モヤモヤはなかなか消えませんでした。
そんなときに出会ったのが、前回も取り上げた『ゼロ秒思考』(赤羽雄二著)です。本に紹介されている「A4メモ書き」をやってみると、まるで頭のサビが落ちていくような感覚。「この先どうしよう」と固まっていた思考が動き出し、心がスッと軽くなり、行動が加速しました。
「何をしてもうまくいかない」という思いが、「これができた」「ありがたい」と、感謝や気づきへと変化していきました。困難な状況の中にある良い部分や、自分の強み・運の良さに目を向けられるようになっていったのです。

イラスト・みよし
正解のないこの時代に、A4メモ書きは「今できること」に気づかせてくれます。私自身、コロナ禍をきっかけに「仕事がオンラインでできるなら、住む場所も自由」と気づき、マレーシアへの移住を決断。今では、日本とマレーシアの二拠点で快適に暮らしています。
メモのテーマはなんでもかまいません。家事の段取り、趣味、人間関係の悩み、今後の目標や計画。思いついたことを、A4用紙に1分間で書くだけです。悩みや課題は、ひとつのテーマをいろいろな角度で書くと効果的。赤羽さんは1日10枚書くことを推奨しています。最初は手書きに慣れず戸惑うと思いますが、慣れると思ってもいないことを手が勝手に書き始めたり、自分で驚くような発見があったりと、楽しくなります。
私は年齢とともに記憶力の衰えを気にしていましたが、メモ書きのおかげで頭の回転がよくなった実感があり、認知症予防にも効果があると思っています。
A4メモ書きは、思考を整理し、行動力を引き出す「脳のトレーニング」です。誰にでもモヤモヤや不安、悲しみはあるもの。でも、そこにとどまり続けるのではなく、行動に変える力が、きっと私たちにはあるはずです。
1分間のメモ。今が何歳であっても、人生の新しいステージへの扉を開くはずです。
今月の笑い
ロボット笑い
YouTube「高田佳子の笑トレで楽生」で、笑いの体操の動画が見られます。
プロフィル

たかだ・よしこ 兵庫県神戸市生まれ。日本笑いヨガ協会代表、一般社団法人笑いイノベーション学会理事長。早稲田大学非常勤講師。人が一生笑って生きられる環境づくりがライフワーク。40代で老年学修士号を取得し、2009年にインドで笑いヨガを学ぶ。介護予防・認知症予防・ストレスケアに役立つ「笑トレ」を提唱し、科学的知見をもとに心と体を軽やかにする生き方を発信している。
笑トレで元気に――健康と幸せを呼ぶ“心の筋トレ”