「バチカンから見た世界」(164) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
パレスチナとの和平に向けた展望も持たず、「イスラエル国家の防衛」という大義名分を軍事力のみで実現しようと試みるネタニヤフ極右政権。10月28日には、議会を通して「イスラエル領土内での国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を禁止する」「イスラエルの公務員に対し、UNRWAとの協力関係を禁ずる」と定めた法案を成立させた。1949年に国連によって創設されたUNRWAは、「ガザとヨルダン川西岸で、医療制度や教育施設など必要不可欠なサービスを提供し、500万人を超えるパレスチナ人難民を直接救済する」ことが目的。国際法で制定された機関のため、イスラエル議会に活動を禁止する権限はない。ガザに向けた全ての救援物資がイスラエルのコントロール下にある現状ではなおさらだ。UNRWA職員の中にハマスの戦闘員が紛れ込んでいるとの理由があろうとも、UNRWAに対する活動禁止措置は、パレスチナ人に対する桁外れの集団処罰であり、国際社会でイスラエルの孤立がさらに深まることは必至だ。国連や国際法を無視し、国際的な孤立をも顧みず、戦争を継続していくイスラエルに対し、マレーシアのイブラヒム首相は、国連追放を目的とする決議案を総会に提出する準備を進めていると報道されている。
10月にバチカンを訪問し、ローマ教皇フランシスコと懇談したイスラエルのオルメルト元首相は、バチカンメディアが報じたインタビュー記事で、「極右勢力のとりこになっているネタニヤフ政権」と非難しながらも、「民主国家としてのイスラエルを信じている」「民主主義が新しい政治指導者を生んでいくだろう」と希望を表明していた。だが、イタリアの「ANSA通信」は11月7日、米国の著名な記者で、ピュリツァー賞を3度受賞したトーマス・フリードマン氏の発言を紹介し、トランプ氏が米国の新大統領となれば、中東問題をネタニヤフ首相に「白紙委任」するのではないかとの予測を伝えた。あまりにも歴史的に複雑な中東問題の前で、「ネタニヤフ首相を信用しない」ながらも、「トランプ氏が歴史を軽視し、この解決困難な問題に巻き込まれることを嫌い、イスラエルがガザとヨルダン川西岸を占領してしまうことを恐れる」と警告したのだ。そうなれば、「700万人のユダヤ人人口を有するイスラエルが、700万人以上のアラブ人を支配する」ことにつながる。