「バチカンから見た世界」(164) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

両氏は過去、人質問題、ハマスとの停戦、戦争終結後のガザ統治、ユダヤ教超正統派青年の徴兵免除などに関して対立してきた。特に、ネタニヤフ首相は戦争継続の強硬姿勢を崩さない一方、ガラント国防相は、人質解放を優先させるためハマスと停戦交渉すべきだと主張していた。米国が大統領選挙の期間中で、すぐには更迭措置に対処できないことを見込んでの策とも見なされた。

同国中道政党のヤイル・ラピド元首相は、「ネタニヤフ氏は自身の政治生命を延長するため、イスラエルとイスラエル軍の安全保障を売却した」と非難し、「国民による抗議運動」を呼びかけた。エルサレムとテルアビブを含む全土で、数千人規模の抗議集会が開かれたと報道された。

イスラエル南部で10月20、21の両日、国際法違反とされるパレスチナ領へのユダヤ人入植を推進する極右系団体が集会を開き、「ガザを征服してパレスチナ人を追放し、ユダヤ人の再入植を進めよう」と気炎を上げた。政権を構成する極右政党党首のベングビール国家治安相も参加し、「ガザは、イスラエル人の土地だ」と主張した。

他方、イスラエル人の不法入植が続くパレスチナ自治区ヨルダン川西岸では10月、パレスチナ人に残された数少ない生産活動であるオリーブの収穫を、イスラエル人の極右不法入植者が攻撃したと「アジアニュース」(11月5日付)が伝えた。1カ月の間に、42村で80件の襲撃事件が発生した。

イスラエルの非政府組織「イェシュ・ディン」(Yesh Din)によれば、パレスチナ人の農民に対して「発砲、武力攻撃、恐喝、追放、収穫妨害、ボイコット、収穫物や道具の盗難、オリーブの木の強制切断」が行われたという。世論の目がガザやレバノンに向けられる状況下で、ヨルダン川西岸ではパレスチナ人に対する“沈黙の戦争”が展開されている。こうした暴行事件の85%が、イスラエル治安部隊の目の前で実行され、隊員が襲撃に加担するケースも多いとのことだ。国連人道問題調整事務所(OCHA)は、「イスラエル国家がヨルダン川西岸で武力政策を行使している」と非難した。