バチカンから見た世界(163) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

ゼルゲン氏は、昨年のハマスによる奇襲で、同じく2民族間の和解運動を展開してきた、母親のヴィヴィアン・シルヴァー氏を失った。また、米国や欧州が、中東の「紛争を輸入(報道)」するだけでなく、「解決策を輸出」するようにと促し、「私たちにできることは、私たちの思考と行動様式を変革していくこと。イスラエルの関心が安全保障にあり、パレスチナが自由と自身の国家を望んでいるかを理解すること」と主張。「非暴力だけが目的達成の方法であり、軍事力はさらなる暴力を誘発するだけ」とも警告した。

さらに、ガザ侵攻は「イスラエル人とパレスチナ人の紛争ではない」「生命と平和を望む人々と、死と破壊を求める人々との戦争であり、両タイプの人間が双方にいる」と指摘。イスラエル人の大多数が、「軍事力が国家の安全保障を構築する道」と信じてガザ侵攻を支持しているが、「彼らは間違っている」と強く批判する。「あなたたちがハンマーを持っているなら、全てが釘(くぎ)に見えてくる」との格言を引用し、「軍事力の選択しか見えない人々にとって、全てが武力行使の視点から考察され、恒常的な紛争状況に縛られてしまう」と分析する。

中東和平の追求に関する「国際共同体の敗北」がつぶやかれる中、ゼルゲン氏は、「国際共同体の現状維持(Status Quo)のメンタリティー」を非難する。中東情勢が不安定だと発言しながらも、イスラエルに対する軍事、経済支援を継続すると同時に、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対する支援も継続する国際共同体は、「イスラエルとパレスチナに、平和構築のための資金を拠出せず、恒常的な紛争状況を維持している」のだ。そして、北アイルランド紛争では、国際社会が紛争解決のために資金と時間を費やしたため調停に成功したと例を挙げ、「中東和平に向けての解決策を追求していく国際協力」(“Great7”ではなく“Peace7”)となることを要請した。