バチカンから見た世界(160) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
G7でスピーチしたイタリアの政界、宗教界の指導者(3)
国連総会(193カ国)は7月1日、AI(人工知能)の開発や利用に関する先進国と開発途上国の間にある情報格差の解消に向けて、国際協力を推進していく決議案を無投票で採択した。国連総会は、3月にも各国にAIの安全性を求める決議案を日米主導で採択している。
こうした、AI開発に関する「知へのアクセスの民主化」「先進国と開発途上国、社会の支配層と被抑圧層との間にある大きな不正義」の問題は、6月14日にイタリア南部で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の拡大会議でも、ローマ教皇フランシスコのスピーチで指摘された。報道では、教皇が残された在位期間で、AIの倫理規制に関する国際合意の成立を最優先課題の一つにするといわれている。
同拡大会議でのスピーチで教皇は、AIは基本的に「特定の問題を解決するために設定され、代数学的な論理の連鎖を基盤として作動する」と説明し、その機能を「人間学的な問題」にも利用する動きがあると警告した。なぜなら、AIが膨大なデータを基盤に作動し、さらなる情報収集と計算プロセスを自動的に修正して自動学習することで、データ間に相関関係を発見して統計価値を改善し、人間学の分野にも介入しつつあるからだ。
その例として、教皇は、判事が刑務所に服役中の犯罪者に対する自宅軟禁の判断をAIに委ねるケースを挙げた。服役者の犯した罪、刑務所内での行い、心理学的な評価、民族、教育水準、信用格付けなど、対象者の私生活にも及ぶ特定のデータをインプットし、再犯を繰り返す可能性をAIに測定させることだ。
教皇は、こうしたAIの使い方を、「一人の人間の宿命を機械に託すこと」と語り、「AIが使用するデータには、すでに内在的な偏見が含まれている可能性がある」と批判。「(服役者を含めた)人間という存在は、常に進化するものだ。時に驚くような行動に出ることもあるが、機械にはそうした人間の行いを予測できない」とも指摘した。
こうした機械特有の限界を持ちながらも、AIのプログラムは、「人間と直接的に反応を交わす能力を持つようになる」と指摘。AIが「人間の身体的、心理的な必要性を個人レベルで感知するように設定されていくようになる」とも予測した。