バチカンから見た世界(19) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

アズハルに響いた諸宗教者の声

4月27、28の両日、エジプト・カイロにあるイスラーム・スンニ派最高権威機関アズハルで開催された「平和のための国際会議」の席上、「アブドッラー国王宗教・文化間対話のための国際センター」(KAICIID)のファイサル・ムアンマル事務総長が講演に立った。「平和とは、人間同士の友愛を根幹とするものであり、あらゆる預言者が示した基本条件」と述べた。その上で、「偽りの信仰によって正当化される暴力」を非難し、そうした暴力行為は「われわれの歴史や文化とは異質のものであり、イスラームを含めて、あらゆる宗教的価値とは矛盾する」と主張した。

正教のバルトロメオ一世・コンスタンティノープル総主教は、「今日、宗教の信ぴょう性は、信徒たちが享受する自由や人間の尊厳の擁護、平和への取り組みにかかっている」とスピーチ。諸宗教者によるこれらの取り組みが、平和共存のみならず、人類の生存の前提条件であると強調し、「諸宗教者が一致してこそなせるもの」と語った。

さらに、世界教会協議会(WCC)のオラフ・フィクセ・トゥヴェイト総幹事は、人々に憎悪、暴力、差別を呼び起こさせるあらゆる発言に対し、「私たちには、声を合わせて異議を唱える義務がある。宗教の間違った解釈や、操作される情報を見極め改めていく義務がある」と強調した。その理由として、「全ての人間の存在に対する宗教者の責任が問われている」からだと発した。

一方、アズハルでのスピーチを終えたローマ教皇フランシスコは、エジプトの政府、市民関係者や各国の大使ら約800人に対し、「中東で、エジプトにしかできない役割」に言及。「愚かな権力志向、武器貿易、過去に例を見ない殺りく、聖なる神の名を利用して遂行される過激主義といった非人間的な暴力」は喫緊の課題であり、エジプトは「暴力の被害を受けながらも、中東地域の平和を安定化させる特別な役割を背負っている」と述べた。

また、現代の国際情勢は「断片的に世界大戦が始まっている状況」と分析。それゆえに、「暴力によって他者を抹消し、聖なる神の名を汚す過激派の行為に対して、その悪のイデオロギーを否定するだけでなく、そのような考え方では文明の構築は不可能だと彼らを説得しなければならない」と強調した。真の神は、無条件の愛、罪の赦し、慈しみ、個々の生命に対する絶対的な尊敬を持っており、信仰者であるか否かを問わず、神の子の間にある友愛を説いているとの見解を示した。

加えて教皇は、神の名を操作し、冒とくする者を「超越(彼岸)の幻覚を売る商売人」との言葉で非難し、「真の信仰と暴力、神と殺りく行為は相いれないもの。われわれには、過激派の理念とイデオロギーを解体させる義務がある」と訴えた。

このほか、教皇はエジプト訪問中、「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派組織から絶え間ない攻撃を受けるコプト正教会のアレクサンドリア教皇タワドロス二世と会談。席上、教皇は悪に対しては悪をもって応じてはならないとし、殉教した「無実の人々の血がわれわれを一致させる」と述べ、「殉教者たちの証しによって強められ、善を説いてその種をまき、協調を強め、一致を維持しながら、暴力に対抗していこう」と呼び掛けた。