バチカンから見た世界(159) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

そのため、AIも同じ道を歩むことになると警告。人間に奉仕するという本来の目的が保障されるならば、科学技術によって人間の偉大さと尊厳性を明らかにするだけでなく、人間が神から受けた、地球とその住民を守り育てる使命を全うすることができるという。科学技術について語ることは、人間とは何であるかを語ることであり、人間の自由と責任の間にある唯一の条件である倫理について語ることだと強調した。

人類の先祖が石を研いで作ったナイフは、毛皮の服の裁断に使用されるのと同時に、殺し合うための道具としても使われたと指摘。同じことが、核エネルギーについても言えると話した。太陽エネルギーのような代替エネルギー源にもなれば、核兵器として地球を廃墟と化すことにも使えるからだ。

普通の道具は、人間が管理し、その使用の良し悪しを人間が決めるが、「AIは、より複雑な道具だ」と教皇は指摘する。AIは、自身に与えられた任務を独自に遂行できる能力を持ち、目的達成のため、人間の介入なしに選択できるからだ。AIの選択能力は、「より大きな可能性、明確に定義された範疇(はんちゅう)、統計」などを基盤とするが、「人間は、選択するだけでなく、決断する能力をも備えている」と述べた。

例えば、政権運営では多くの人々に影響を与える事柄の決断を迫られることもあるが、それ故に、人間特有の「叡智(えいち)」が必要になる。「独自の選択能力を持つAIの出現、という奇跡的な出来事に直面しながらも、決断は、人間によってなされなければならない」と戒めた。「人間が機械に依存し、自身と、自身の生活空間に関する決断を奪われることは、人間を希望のない未来へと追いやることになる」と語った。

また、教皇は、「AIのプログラム設定プロセスで、人間による、強力な管理システムが保障、擁護されなければならない」と訴えた。武力紛争といった劇的な状況下では、自律型致死兵器システムの開発、使用が再考されつつあり、その禁止は急務だと述べ、「どんな機械にも、人間の生命を奪うという選択をさせてはならない」と呼びかけた。(つづく)