バチカンから見た世界(18) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
「聖」を名乗る暴力の仮面を剥がす
エジプト・カイロにあるイスラーム・スンニ派最高権威機関アズハルで開催された「平和のための国際会議」の席上、ローマ教皇フランシスコがスピーチに立った。冒頭、エジプトを「文明の地」と呼び、エジプト文明が知と教育を奨励し、その営みの叡智(えいち)によって多様な出会いの場と分かち合いの機会が見いだされたと語った。また、「同盟の地」とも位置づけ、エジプトの歴史において、「異なる信仰が出会い、さまざまな文化が混じり合い、しかし、混交されることなく、(国家という)共通善に向けて同盟する重要さが認知されていった」と述べた。
その上で、「このような同盟が今日、どれほど緊急性を帯びてきていることか」と語り掛け、現代の諸宗教対話に触れながら、「全ての人々の未来が、諸宗教と諸文化の出会いに依拠しているという確信に沿い、対話、とりわけ諸宗教対話において、われわれは常に、共に歩むよう促されている」との見解を示した。これは、「出会いの文明」と対抗するのは「文明の衝突」であり、出会いの文明以外に選択肢はないという考えによるもの。「この緊急で情熱を要する文明の挑戦に対し、全ての信仰者が自ら率先して貢献していくよう促されている」と話した。
また、『旧約聖書』の「出エジプト記」に言及。預言者モーゼが、炎となって出現した神から「十戒」を授けられたといわれるシナイ山を、教皇は「(神と人間の間における)同盟の山」と呼び、「人類が、神を地平から排除して平和のうちに出会うことを提唱することはできず、また、神を自分の所有物とするために(同盟の)山に登ることはできない」と強調した。加えて、「十戒」にある「汝、殺すなかれ」の言葉も引用し、神が生命を愛し、人間を愛してやまないが故に、暴力の道に対抗するよう励まされているとし、「(この神との同盟が)地上における、あらゆる同盟の基本であり、前提条件である」と主張した。
続けて教皇は、「暴力は、全ての宗教性の否定」と語り、諸宗教指導者は、「利己主義を絶対化して『聖』を名乗る暴力の仮面を剥がしていくように促されている」と指摘。「われわれには、人間の尊厳を奪い、人権を蹂躙(じゅうりん)する行為を告発し、宗教の名を借りて正当化される、あらゆる暴力、偽りの崇拝を明らかにし、これに対峙(たいじ)していく義務がある」と訴えた。「平和のみが聖であり、神の名を冒とくするが故に、どんな暴力も神の名によって行使されてはならない」からだ。
さらに教皇は、「天地が出会う地、諸民族と諸宗教の同盟の地から、宗教や神の名によって犯される、あらゆる暴力、報復、憎悪に対して、断固“ノー”を」と呼び掛けた。また、「暴力と信仰、信じることと憎むことは相容れないと、共に訴えていこう。身体的、社会的、心理的暴力に反対していこう」と強く訴えた。