バチカンから見た世界(140) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
当初から、プーチン大統領は「ロシア世界の一部であるウクライナを、欧米諸国の脅威から守るため」と侵攻を正当化してきた。プーチン大統領とロシア正教会の最高指導者であるキリル総主教にとって、侵攻の最終目的はウクライナの併合ではなく、欧米諸国によって一極化された世界に勝利し、「東方(ロシア)からの光によって照らされる、新しい西洋の構築」なのだ。
ロシアは、ウクライナ、中央アジアなどを含む旧ソ連圏復興の中核となり、「モスクワを第三のローマ」として、「第二のローマ」(コンスタンティノープル/現イスタンブール)から受け継がれてきたロシアの伝統的キリスト教価値観を基盤とする西洋の再建を目指している。ローマ帝国時代のローマ、ビザンチン世界のコンスタンティノープルが、当時の世界とキリスト教の中心であったように、現代でロシアが、真のキリスト教の価値観を基盤とする西洋や世界の中心になるべきという考えだ。
腐敗した欧米のキリスト教文明、その結果ともいえる「北大西洋条約機構」(NATO)から旧ソ連圏を守るためのウクライナ侵攻は、国際法を無視し、核兵器の使用をちらつかせながら、無実の一般市民を犠牲にして展開されながらも、あくまで「形而上学(けいじじょうがく)的な戦い」(キリル総主教)なのだ。