バチカンから見た世界(128) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

世界の諸宗教者が対処すべき4課題――教皇

9月14日、カザフスタンを訪問していたローマ教皇フランシスコは、首都のアスタナ(旧ヌルスルタン)で開かれた「世界伝統宗教指導者会議」の開会式に出席した。

諸宗教指導者による沈黙の祈りで始まった開会式では、同国のカシムジョマルト・トカエフ大統領の開会の辞に次いで教皇が登壇。『現代世界において諸宗教者が対処していかなければならない4課題』について、50カ国から参集した108の使節団を前にスピーチした。

教皇はまず、新型コロナウイルスの「パンデミック」(世界的流行)、そして「弱さと癒やし」が、諸宗教者の対処しなければならない「第1の挑戦」だと指摘し、パンデミックに襲われた「全ての人々が、脆弱(ぜいじゃく)であり、介護を必要とし、誰も完全に自立できず、自足もできないと感じた」と振り返った。その上で、「諸宗教者は人類家族をさらに分裂させる可能性のある試練の前で、人類の一致を促進するパイオニアでなければならない」と訴え、人間の弱さを忘れないことは、「技術や経済の進歩に由来する(人間)万能という、虚偽の驕(おご)りに陥らないために、それらの進歩だけでは十分でないと知る」ことだと主張した。

また、パンデミックを通して浮かび上がってきた、人類共通の弱さが、「以前と同じように歩まず、より謙遜となり、より長期的な展望の上に立って行動するようにと奨励している」とも説き、「コロナ禍後の諸宗教者は、治癒のために専念するようにと誘(いざな)われている」が、それは、「人類家族の、あらゆる側面を含む治癒」であり、「自身の属する共同体、民族、国家、宗教という柵を超えた協力の推進者、すなわち、“交流の手工芸者”になっていかなければならない」と述べた。

パンデミックが浮き彫りにした、地球レベルでの不平等という悪と、その悪に最も苦しんだ貧者や、より弱き人々の治癒を優先的な課題として挙げる教皇。その根幹には、全ての人々に対するワクチンへのアクセス権保障の問題がある。そのため、「不平等や不正義がまん延する限り、憎悪、暴力、テロといった、新型コロナウイルスよりもさらに悪いウイルスを除去することはできない」と警告する。

教皇が世界の諸宗教指導者たちに提唱した第2の課題は、ここ数十年間にわたり、諸宗教指導者間における対話の中心的テーマであった「平和への挑戦」だ。

「私たちの存在の究極目的であり、人間生命に起源を与えた創造主の前で、信仰者である人間が、どうして、その生命を抹消することに同意できるのか」というのが教皇の説く反戦論理の中核にある。そのため、過去の戦争の恐ろしさや過ちを反省しながら、「全能の神が、人間の権力志向の虜(とりこ)にならないように努力しなければならない」のだ。

教皇はスピーチの中で、私たちが正当で、他者から何も学ぶことはないといった自己過信から心を浄(きよ)め、頑固さ、過激主義、原理主義によって神の名を攻撃し、憎悪、狂信主義、テロによって侮辱するのみならず、人間のイメージをも歪曲(わいきょく)する行為からの解放を求めていかなければならないと訴えた。そして、「神は平和であり、絶対に戦争へと導くことはない」のだから、「紛争を、結末のない解決策である武力、兵器、恐喝によってではなく、天によって祝福され、人間にふさわしい唯一の方法である、出会い、対話、忍耐ある折衝によって解決して努力を促進、強化していかなければならない」と呼び掛けた。

第3の課題は、難民や移民の「友愛を基盤とした受け入れ」だ。

教皇は「現代人は、他者を受け入れることに多大な困難を感じている」が、「現代ほど、戦争、貧困、気候変動から逃れ、世界化現象を見せながらも、到達することのできない富裕を求めて、大量の移民が発生したことは、かつてなかった」と分析。こうした現象の前で、「人間の苦、彼らの置かれている惨めな条件に対する感動と驚きに由来する、“健全なる恥辱の感覚”」を忘れないようにしようと訴えた。

これは、「慈悲の精神が、私たちを、より人間的に、そして、より信仰者としていく」からで、一人ひとりの人間の侵害できない尊厳性を主張し、他者のために泣くことは、私たちに託された課題であり、「人類の苦労を、私たち自身のものとして担う時、私たちが本当に人間となることができる」からであるという。

第4の課題は「(人類に)共通の家(地球)の保全」だ。気候変動に晒(さら)されている地球を、「利益の論理によってではなく、次世代のために保存し、(アッシジの聖フランシスコのように)神の創造の賛美を謳(うた)う」ことである。これは、「崇高者(神)は、愛の配慮によって生命のためである共通の家を提供してくださったのであり、崇高者の子供を称する私たちが、その共通の家を汚染、乱用、破壊してはならない」からだと教皇は言う。

スピーチの最後に、「ウイルスが、微小ながらも進歩による巨大な(人間の)野望を粉砕させたように、私たちが原因となって、私たちを取り巻く自然の均衡が悪化した」と述べ、パンデミックも自然環境の破壊も人間の責任であり、その間に相関関係があることを指摘した。