バチカンから見た世界(102) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

人間的な治療とは何か――コロナ禍での本質的な問い掛け

クリスマスの前日(12月24日)、イタリアにおける新型コロナウイルスの感染者累計が200万人に上った。死者は7万人を超えた。

高齢者を中心とした重症患者は集中治療室で孤独に闘いを強いられる。回復できなければ、愛する家族らに看取(みと)られることなくこの世を去っていくことになる。葬儀もかなわず、遺体が引き取られない死者も多かったという。

英国では、感染力の強い同ウイルスの変異種が見つかった。この変異種は、若者や子供に対しても深刻な影響を与える可能性があるのではないかと心配されている。欧州連合(EU)加盟諸国では同27日、ワクチン接種が各地で開始された。だが、「集団免疫」が獲得されるにはまだ時間が必要で、今年も感染拡大防止の規制を守る生活が続くだろう。

同ウイルスは、人間生活に関わるあらゆる分野で、これまで先送りにしてきた問題を浮き彫りにしてきた。「人間の生命とは何か」という問い掛けがなされ、人間の尊厳性の再考察を迫ってきたのだ。

この観点から、同24日付のイタリア日刊紙「ラ・レプブリカ」には、『情愛のある治療が集中治療室にいる患者の回復を早める』と題する記事を掲載した。記事によれば、トスカーナ州ピサにある市民病院で、集中治療室担当の看護師が「病院付の神父が毎日、集中治療室で重症患者を慰めているのに、なぜ患者の家族は入ることができないのか」と疑問を抱き、病院側に「感染予防の規定を厳格に守るという条件で患者の家族を受け入れてはどうか」と提案したという。

病院側もこの提案を検討し、「試験段階」として、高齢重症患者の娘を集中治療室に入れることにした。すると、娘から手を握られ、深い愛情のこもった眼差(まなざ)しを向けられて言葉を掛けられていた患者は次第に回復し、短期間のうちに集中治療室を出ることができたという。集中治療室の担当医であるパオロ・マラカルネ氏は、「親族の深い愛情が回復につながることは科学的にも証明されており、その事実を報告する書籍も多く刊行されている」と述べて「治療の人間化」を主張した。感染予防のために隔離だけを考え、人間の尊厳を忘れた科学と医療に一石を投じたのだ。さらに同氏は、抵抗力の弱い重症患者に対して親族の訪問を許可してから、「最初の8人全員が回復し、集中治療室から一般感染者の病棟へ移ることができた」と話している。