バチカンから見た世界(101) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
新型コロナウイルス流行第2波――イタリア、米国の対応
新型コロナウイルスの「第2波」がイタリアを襲っている。1日平均の感染者数が3万人近くに上り、死者は700人を超える。
政府は、感染者数や病院の負担(特に集中治療室の稼働率)に関する統計を基に、全ての州を危険度が高い順に赤、橙(だいだい)、黄の3色に区分。段階的に国民の活動を規制し、赤に指定された州では、生産活動を除く事実上のロックダウン(都市封鎖)が実行されている。
さらに、全土で夜10時から朝5時までの外出を禁止し、バール(コーヒーショップ)やレストランに対しては午後6時の閉店を指示。食料品販売店や薬局を除くショッピングセンターも、週末は閉鎖している。
政府は人々が密集しやすいクリスマスのバカンスシーズンを控え、さらなる感染の拡大を懸念している。クリスマスの前は買い物で外出が増え、家庭に集まってのパーティーなども多くなり、感染の機会が増すからだ。
12月3日には、国民の活動をさらに規制する新しい首相令が公布された。その中には、スキー場の閉鎖、他州への移動の禁止、家庭内でのクリスマスパーティー招待者の人数制限(親近同居者のみ)などが盛り込まれた。翌4日から1月15日まで効力を発揮する。
カトリック教会では毎年、クリスマスの深夜にミサが執り行われてきた。しかし、今年は夜間の外出禁止令が出ているため問題となった。フランチェスコ・ボッチャ州問題・自治担当相は11月27日、「私自身もカトリック信者だが、キリストが生まれる2時間前のミサに参加したからといって異端ではない。異端なのは、病人や医師たちの苦しみ、また困難な医療活動が続いていることに対して無頓着なことだ」と発言。カトリック教会にクリスマスミサの時間を早めるように進言した。
イタリア・カトリック司教会議は同日、首相府、内務省、同ウイルスの技術科学委員会との対話を重要視し、「政府の指針を順守して安全を保ち、クリスマスの儀式を執行していく」という声明文を公表し、クリスマスミサの時間帯を早めることに合意した。
また、カトリック教会において12月8日は、聖母マリアが原罪なくして生まれたことを記念する「無原罪の聖マリアの祝日」にあたり、ローマ教皇が毎年同日にローマ市内のスペイン階段で、無原罪の聖母に対する崇敬行事を執り行ってきた。しかし、バチカンのマテオ・ブルーニ広報局長は11月30日、ローマ教皇フランシスコがイタリア国内でのコロナウイルスの感染状況が悪化していることを考慮し、今年は同崇敬行事を中止すると発表した。
一方、隣国スイスでは同ウイルスの感染予防政策の一環として、11月1日から諸宗教の礼拝所が閉鎖されている。同国国家評議会は25日、さまざまな規制を緩和する政令を公布したが、その中に礼拝所の開放は含まれておらず、キリスト教やユダヤ教の指導者たちは、「政府は諸宗教の共同体と霊的実践の重要性を考慮しない」と抗議している。
また、米国ニューヨーク州では10月6日、アンドリュー・クオモ知事が同ウイルスの感染予防政策の一環として、宗教施設での集いを、地域の状況によって10人から25人に制限する条例を公布した。これを受け、同州のカトリック教会とユダヤ教の共同体は、条例は「憲法修正案第1条(信教の自由)に違反する」として提訴。しかし、連邦地方裁判所、同控訴裁判所のどちらも訴えを棄却した。カリフォルニア州(5月19日)、ネバダ州(7月24日)で起きた同様の訴訟を両州が退けた措置に対し、「合憲」と判断した判例に沿ったのだ。
しかし、同最高裁判所は11月25日、両宗教の主張を認める判決を下した。今年9月にトランプ大統領が保守派カトリック信徒のエイミー・バレット氏を同最高裁の判事に任命。判事の政治的なスタンスが保守派6人とリベラル派3人となり、均衡が崩れたことが今回の判決につながったとされる。