バチカンから見た世界(100) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
『誰も一人では救われない』 聖エジディオ主催の平和の祈り
今は亡きローマ教皇聖ヨハネ・パウロ二世が、世界の諸宗教指導者に呼び掛け、イタリア中央部にある聖都アッシジにおいて「世界平和祈願の日」を実現させたのは、世界が東西冷戦による核戦争の脅威に怯(おび)えていた1986年のことだ。
この「アッシジの精神」から35年が経過した今、「あらゆる貧困の母である戦争」(現教皇フランシスコ)が絶えない世界で、多くの人々をさらに苦しい生活へと追いやり、連帯を壊しかねない危険性を持った新型コロナウイルス感染症が大流行している。こうした混沌(こんとん)とした世界情勢の中で、「アッシジの精神」を継承する、聖エジディオ共同体(カトリックの在家運動体、本部・ローマ)主催の「第34回世界宗教者平和のための祈りの集い」が10月20日、ローマの中心部にある市庁舎前のカンピドリオ広場で行われた。
今年のテーマは『誰も一人では救われない――平和と友愛』。イタリア国内は同ウイルスの感染者数が連日、1万人を超える状況で、感染対策のため、諸宗教指導者は教皇フランシスコ、東方正教会コンスタンティノープル・エキュメニカル総主教のバルトロメオ一世をはじめ、プロテスタント教会、ユダヤ教、イスラーム、仏教、シーク教の代表者を含めた7人のみでの開催となった。このほか、イタリアのセルジョ・マッタレッラ大統領が出席。ルネッサンスの巨匠ミケランジェロがデザインしたといわれる同広場につくられた会場には、感染予防のため、椅子が十分な間隔を取って配置され、招待者が着席した。本会から水藻克年ローマセンター長が出席した。
同集いは毎年、欧州各国で開催され、テレビやインターネットを通してライブ中継されてきた。プログラムも3日間にわたって行われてきたが、コロナ禍である今年は開会式や分科会を中止し、宗教別の祈りと、従来の閉会の式典だけが執り行われた。
20日午後、ローマ市内の教会、シナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)、諸施設で宗教別に祈りを捧げた7人の諸宗教指導者は、カンピドリオ広場に設置された式典の舞台に到着し、着座した。最初に登壇した聖エジディオの共同体創設者のアンドレア・リカルディ教授は、世界の諸宗教が対話を基に共に進むために最も重要なことは、「教皇パウロ六世が主張したように、神との対話である祈りにある。『一人では救われない』という確信は、共有すべきビジョンであり、人類にとっての夢を拓(ひら)くもの」と述べ、諸宗教者の集いの意義を説明した。