バチカンから見た世界(8) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

「難民の受け入れは、正義と文明と連帯に基づく義務」

政情不安が続くリビアから、密航業者の用意した老朽船やゴムボートに乗り、地中海を渡ってイタリア南部の海岸を目指す人々がいる。しかし、リビアを離れて間もなく超満員の船は航行不能に陥り、イタリア沿岸警備隊や地中海航行中の各国籍の船舶に救助され、近くの港湾に搬送されるケースが多い。

彼らの多くは、アフリカのサハラ砂漠以南に位置する国々の出身者だ。陸路で祖国を後にし、密航業者や犯罪集団、人身売買組織などを頼りにして、命がけで砂漠の横断を試みる。しかし、各国の国境では、略奪や性的暴行といった被害に遭うことが多く、危険と隣り合わせだ。リビアに到着後も、過酷な収容所生活を強いられ、ようやく密航船に乗ることができたとしても、高額な密航料金を払えない人たちは、老朽船の安定を損なわないため、甲板に出ないよう船腹に閉じ込められる。船が沈没すれば即溺死だ。こうした悲劇が、欧州では数多く報道されたが、波の荒れる冬の地中海を渡る、密航者たちの危険な漂流が増えている。

昨年1年間で、地中海を渡ってイタリアの地を踏んだ密航者の総数は18万人以上。今年は2月22日までで、密航者は1万2924人に上った。国際移住機関(IOM)によると、密航者数は前年の同じ時期の3倍に達し、死者数も前年に比べて366人に増えた。さらに、ここ数年間の傾向として、両親や身内の人と離れて未成年だけで海を渡る密航者が急増している。

国連児童基金(ユニセフ)が発表した統計によれば、昨年、イタリアに到着した密航者のうち、2万5846人が家族など大人の付き添いがいない未成年者。その56%が17歳以下だった。また、彼らのうちの6561人がイタリア入国後に行方不明になっている。

2013年にローマ教皇に選出されたフランシスコは、就任後の最初の訪問地として、当時、密航者の漂着が集中していたシチリア州ランペドゥーザ島を選んだ。これ以降、あらゆる機会を通して、移民の受け入れと現地社会への同化政策の充実を訴え、彼らの入国を阻止しようとする政権やグループとは対峙(たいじ)してきた。

2月21日、教皇フランシスコはバチカンで『移住と平和』と題する国際フォーラムの参加者と面会。この中で、紛争、自然災害、迫害、気候変動、暴力、極度の貧困、人間にふさわしくない生活によって移住せざるを得ない人々の「受け入れ、擁護、発展の促進、社会的包摂」の必要性を示した。また、移住せざるを得ない人々に対して、「蹂躙(じゅうりん)も、無視もしてはならない」と語りかけ、「彼らは人間としての権利を保持している」と強調。「受け入れ、擁護、発展の促進、社会的包摂」の行動は、人類全体の「正義と文明と連帯に基づく義務である」と主張した。さらに、「地球の資源の半分は、一握りの人の手中にある」と世界経済のひずみや経済的格差の問題を指摘し、その犠牲となっている人々に対しても、「正義と文明と連帯に基づく義務」により手を差し伸べていくよう訴えた。