バチカンから見た世界(98) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

アヤソフィア(写真AC提供)

歴史的建造物「アヤソフィア」がモスクに(5) 「信教の自由への攻撃」とボー枢機卿

博物館からモスク(イスラームの礼拝所)に変更されたトルコ・イスタンブールにある歴史的建造物「アヤソフィア」(ギリシャ語で「ハギアソフィア」)で7月24日、86年ぶりにイスラームの金曜礼拝の儀式が執り行われた。

これに先立ち、世界教会協議会(WCC)はトルコのエルドアン大統領宛てに公開書簡を送付。「アヤソフィアが、全ての国とさまざまな宗教の人々に対して門戸を開放し、出会いとインスピレーションの場として残るように」と訴えていた。

この公開書簡は、「人類の友愛高等委員会」のモハメド・マフムード・アブデル・サラム事務局長(イスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」=エジプト・カイロ=のグランドイマーム)からの親書によっても支持された。同委員会は、昨年2月にローマ教皇フランシスコと「アズハル」のアハメド・タイエブ総長が署名した「人類の友愛に関する文書」の精神を世界に広く伝えるための組織で、昨年9月に創設された。

サラム師は、世界の人々がアヤソフィアの文化的、霊的価値を大いに認めている点を踏まえ、「分裂が回避され、全ての宗教の間に尊敬と相互理解が促進されるよう願い、あなたたちのイニシアチブを支持します」と表明。礼拝の場は、全ての信仰者に対して常に平和と愛のメッセージを伝えるものでなければならないと訴え、「(アヤソフィアの)全ての関係者が、諸宗教対話や諸文化交流を危機に陥れ、異なる宗教の信徒間に緊張と憎悪を助長するようなあらゆる行いを慎むように」と発している。公開書簡には「人類の友愛に関する文書」のコピーが添付され、新型コロナウイルスの世界的流行に直面する現代では、「全人類が友愛への呼び掛けに応え、共存していくことが求められている」と結んだ。

アラブ首長国連邦(UAE)のヌーラ・アル・カアビー文化・知識開発大臣も、アヤソフィアでのイスラームの金曜礼拝を前に、「人類の文化遺産は、その価値と役割という観点から保存されるべきで、それを逸脱し、他の目的や個人的利益のために利用されてはならない」と発言。これまでアヤソフィアは「(宗教や文化の)違う人々の間に橋を懸け、その関係を確固たるものとし、アジアと欧州の間に交流と対話をもたらす重要な象徴となってきた」と述べ、「調和ある人類史の証」として残されるべきと強調した。

だが、パレスチナ・ガザ地区を実効支配する過激派組織ハマスは、アヤソフィアのモスク化を「全てのムスリム(イスラーム教徒)にとっての誇り」と称賛。エルサレムの元ムフティ長であるエクリマ・サイド・サブリ師は、エルドアン大統領への「祝辞」を表した。