バチカンから見た世界(97) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
歴史的建造物「アヤソフィア」がモスクに(4) 宗教的にも対立するトルコとエジプト
ローマ教皇フランシスコは8月30日、バチカンでの正午の祈りの席上、スピーチし、東地中海で周辺国の利害から軍事的緊張が高まっている現状に対して憂慮の念を示した。
この中で教皇は、この地域を脅威に陥れる紛争を解決していくため、「建設的な対話と国際法の順守」を訴えた。
東地中海の海底には大量の天然ガスが埋蔵されている可能性が高いとされ、その開発権をキプロス、イスラエル、トルコ、ギリシャ、エジプト、リビアなどの周辺各国が主張しているのだ。特に、トルコとギリシャはこの地域の領有権と資源開発を巡って対立し、ドイツの仲介によって交渉を続けてきたが、同6日にギリシャとエジプトが東地中海における両国間の排他的経済水域(EEZ)を画定する合意文書に署名したことによって、交渉は頓挫した。ただし、ギリシャとエジプトの合意は、それより以前にトルコがリビア暫定政権(サラージ政権)と交わしたEEZの画定合意に対する報復措置といえる。
リビアは暫定政府のサラージ首相と有力軍事組織「リビア国民軍」を率いるハフタル氏(リビア軍元将校)が国家の主導権を巡って内戦状態にあり、トルコはサラージ暫定政権を支援する目的で軍事介入している。軍事介入の代償の一つとして、トルコは東地中海におけるEEZの画定合意を得たといわれている。これに対してギリシャは、ハフタル氏に接触している。エジプト議会は7月20日、トルコに支援されるサラージ暫定政権軍の進撃を阻止し、ハフタル政権を支援するために国軍のリビア派兵を決定した。8月21日付の「バチカンニュース」は、リビアで「中東二大勢力間での衝突が恐れられている」と伝えた。
こうした状況下、トルコは8月18日、キプロス島南西岸沖の海域に掘削船を派遣し、天然ガス採掘の調査を開始。同25日にはこの海域でイタリア海軍と軍事演習を行った。これに対し、ギリシャは26日からフランス、イタリア、キプロスと共に軍事演習を行うことによって応酬した。27日には同海域においてトルコ軍の戦闘機がギリシャ軍機を追尾し、偶発的な衝突が起きかねない事態にまで発展していた。そこまで、東地中海における緊張が高まってきているのだ。
トルコのフルースィ・アカル国防相は9月3日、外部の東地中海状況への介入を強く牽制(けんせい)しながら、「われわれは、(東地中海における)緊張を高めようとしているのではない。われわれの権利と利益を守っているだけのことだ」と発言した。オスマン帝国を彷彿(ほうふつ)とさせるような影響を持つ大国にまでトルコを育て上げ、中東、地中海域、イスラーム圏における主導権を握っていくためには、国家発展の基盤となるエネルギー源の確保が不可欠だ。東地中海におけるトルコとギリシャの対立も、オスマン帝国とビザンチン世界(東ローマ帝国)との相克を彷彿とさせる。