バチカンから見た世界(87) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
さらに教皇は、「出会いと対話の文化」を呼び掛け、東京オリンピック・パラリンピックは「国と地域の境界を超えて、家族である、われわれ全人類の善(幸せ)を求め、連帯の精神を育むものになるだろう」と期待を寄せた。加えて、「諸宗教間における善き関係は、平和な未来の構築のみならず、現在と未来の世代が真に正義に適(かな)い、人間らしい社会の基盤となる道徳・倫理の大切さを認識するために重要なこと」と述べた。その上で、今年2月にアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで、イスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長と共に署名した「人類の友愛に関する文書」に言及。「家族である全人類の未来についての憂慮」が、私たちを「対話の文化、協働、相互理解を推進する方法へと促し、採択した」(同文書)と述べた。
教皇は地球の環境についても触れた。スピーチの中で、日本を象徴するサクラの花のデリケートな美しさに触れながら、そのか弱さを、われわれの「共通の家」(地球)の自然環境として見る教皇は、共通の家が「自然災害のみならず、人間の貪欲さ、搾取、破壊の犠牲になっている」と指摘。「国際社会が創造(自然)の保全に努力することは困難だとの姿勢を見せるとき、声を上げて要求し、勇気ある決断を迫るのは若者たちです」とし、「地球を搾取すべき所有物としてではなく、継承していくべき貴重な遺産として考えるようにと迫っている」と述べた。これは、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが起点となり、世界中に一気に広まっている若者たちの環境保全運動のことだ。彼らに対して、私たちは「空虚な言葉ではなく、誠実に応えなければなりません。まやかしではなく、事実を示していく義務を負っているのです」との考えを示した。
ここで教皇は、自身が公布した回勅「ラウダート・シ」の中で強く主張した「包括的環境論」について説明した。「共通の家を守るための包括的なアプローチは、人間環境学(ヒューマンエコロジー)という視点を考慮しなければならない」と指摘。環境保全という課題に挑戦していくことは、拡大している貧富の格差の解消に取り組むことであり、「世界人口の大多数が貧困のうちに生きるという状況にあって、ごく一部の人々が有り余る富を所要している世界経済の仕組みを変革すること」を意味していると述べた。教皇は、「人間の尊厳が、あらゆる社会、経済、政治活動の中心でなければならない」と主張し、「(社会において)忘れられ、排除されている人々に思いを寄せていかなければなりません。特に成長を疎外されている若者たち、孤独に苦しむ老齢者たちに」と訴えた。最後に、教皇は、「それぞれの国や民族の文明は、経済力によってではなく、助けを必要としている人々への思いやり、いのちを育み、豊かにしていく能力があるか否かによって測られる」と述べ、政府関係者や在日外交団へのスピーチを終えた。