バチカンから見た世界(84) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

実践のプロセスへ 具体化する“人類友愛のための文書”

「人類の友愛に関する文書」に記された精神を世界に広く伝え、その実現を果たすために創設された「人類の友愛高等委員会」。9月11日にバチカンにあるローマ教皇フランシスコの居所「聖マルタの家」で開かれた第1回会合で教皇は、高等委員会を「友愛の手職人」と評し、委員会が「手を差し伸べるだけでなく、心をも開放する、新しい取り組みの始まり」になるようにと願った。

高等委員会の活動を定義する会則について審議した参加者たちは、委員会の具体的活動として、まず「毎年2月3日から5日にかけての一日を『人類の友愛の日』として定めるようにと国連に提案」することを決め、「他宗教の指導者たちにも高等委員会に加入するように呼び掛ける」ことを決議した。また同日が、米国同時多発テロが起きた日であったため、最後に委員たちは宗教別に、同テロを含む全てのテロの犠牲者に祈りを捧げた。

高等委員会は、決議事項を即刻実行に移した。9月16日、高等委員会は、米国の「ニューズウィーク」誌が「米国のラビ(ユダヤ教指導者)の中で最も強い影響力を有する一人」と評した、ワシントンで活動するM・ブルース・ラスティグ師を委員に任命したことを公表。ラスティグ師は、2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ後の米国において、キリスト教、ユダヤ教、イスラームの指導者で構成される「アブラハム信仰サミット会議」(後の「アブラハム信仰円卓会議」)を招集し、「米国全土における和平と諸宗教対話」の促進に尽くした。

同師は、「憎悪を愛、不正義を正義、恐怖を信仰によって克服しようとする、高く評価された指導者たちのグループに参加することは光栄」と心情を表明。「『人類の友愛に関する文書』と、われわれに共通する神への信仰が示しているように、分断された世界に調和、希望、正義、愛をもたらすために努力しようとするわれわれ一人ひとりに、神が力と勇気を与えてくださいますように」との祈りを捧げている。同委員長を務めるバチカン諸宗教対話評議会議長のミゲル・アンヘル・アユソ・ギクソット枢機卿は、「高等委員会に託された任務を全うするには、イニシアチブやプロジェクトの実施が必要であり、さまざまな指導者や専門家たちと出会いを重ねていく」と述べ、ラスティグ師の参画を歓迎した。