バチカンから見た世界(78) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

人類家族の子供たちが順守しなければならない他者の自由のうち、教皇は特に、信教の自由について言及し、信教の自由とは、「礼拝の自由にとどまらない」と指摘。その上で、「他者を同じ人間性を有する真の兄弟、子供と見なす」ことが大事であるとし、人間について「神は、自由に決断することができる存在として残されたのであり、どんな人間の制度といえども、また、神の名を使っても、その人間の自由を侵し、強制するようなことがあってはならない」と述べた。これは、特定宗教への改宗を強制したり、異なる宗教の布教を禁じたりしてはならないという、ムスリムへの教皇からの呼び掛けであり、諸宗教の礼拝の自由は認められるものの、公共の場での礼拝や異なる宗教の国内布教を禁じていることが多いイスラーム諸国において、諸宗教の布教や社会活動の自由が認可されていくことを願うアピールでもあった。

また、教皇は、他者を完全な形で認めることを「対話の魂」と呼び、「心からの祈りが友愛の回復剤」であると主張した。「諸宗教対話の未来のために、われわれが最初になすべきことは祈り」であり、それも「私たちが相互に祈り合うことだ」との確信も表明した。第二バチカン公会議の最後の年に、庭野日敬開祖と教皇パウロ六世の間で交わされた言葉――「仏教徒がキリスト教徒のために祈り、キリスト教徒が仏教徒のために祈る」を彷彿(ほうふつ)とさせる教皇フランシスコの発言は、友愛を基盤とするイスラームとの対話が「第二バチカン公会議の路線に沿ったものである」ことを証している。

「さまざまな宗教の信徒たちが自身の伝統に沿って神に祈ることによって、全てが可能となり、その神の望まれるところは、全ての人間が兄弟として認め合って生き、多様性に満ちた調和のうちに『一大人類家族』を構成していくこと」であると教皇は強調する。「未来を共に構築していくか、あるいは、未来を消失するか、それ以外の選択肢はない」と言うのだ。「特に、諸宗教にとっては、諸国民と諸文化の間に橋を構築していくことが急務であり、それ以外の選択肢はない」とも訴える。

加えて教皇は、「諸宗教が、人類家族の和解の能力や希望のビジョン、平和に向けた具体的な取り組みを育んでいくには、もっと積極的に、勇気と果敢さをもって活動することが必要で、その時が到来している」と主張した。ここで教皇は、旧約聖書に出てくる「ノアの箱舟」に触れ、神との和解の使者としてオリーブの枝を口にくわえて飛来した「平和の鳩」を挙げながら、鳩と同じように「平和も、飛躍するためには翼が必要である」と話し、平和の鳩の両翼は、「教育と正義である」と強調した。